野菜ソムリエの思ひ出の味
祖母が作ってくれた「だいこん寿し」

2017年3月8日UP
 私が野菜ソムリエになろうと思ったのは、結婚をして年代の違う家族と同居したことが大きく影響している。自身が体調を崩したこともきっかけのひとつにあるが、やはり一番は、家族みんなに健康でおいしく野菜を食べてもらいたいと思ったからだった。
 資格取得に至り、“食べてくれる相手を思いやる気持ち”の大切さはもちろんだが、例えば、地元である石川県金沢市の伝統野菜・加賀野菜の源助だいこんが絶滅の危機にさらされながらも今尚おいしくいただけるのは、“人を思う気持ち”や“先人から受け継がれた物を大切に守り育てる気持ち”があったからこそだと気がついた。手間のかかる伝統品種を栽培するご苦労を知る度に、感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。そして、そういった奥深さやストーリーを多くの方に知って味わってもらいたいと考えるようにもなった。

 そんな時ふと思い出したのは、祖母が作ってくれた「だいこん寿し」だった。我が家では、おせち料理の横に大皿に盛られただいこん寿しが並ぶ。お正月は大勢の親戚たちが我が家の座敷に集まり、祖母のだいこん寿しをみんなで取り分けて食べるのが恒例であった。だいこん寿しは発酵食であるため、仕込み加減や気温変化などによっても味が変わってくる。みんなが笑顔で嬉しそうに食べながら、その年の出来具合にも話の花が咲いていた。

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 だいこん寿しは、食べるのは容易いが、なかなかに手間と時間のかかるものだ。12月中頃になると、まずだいこんを塩漬けするところから始まる。祖母は、源助だいこんを使う時もあったが、入手しやすい青首だいこんを使うことが多かったようにも思う。そして、麹と炊いた米を合わせてこたつで発酵を促す。麹が発酵したら、桶に、麹、塩漬けしただいこん、身欠きニシン、塩漬けしたサケ、塩漬けしたサバ、柚子とにんじんの千切り、鷹の爪、刻んだ昆布を順番に重ね入れ、それを繰り返していく。最後にその上に重石を置き、本漬けをする。重量のある重石を置くのはさすがに父が手伝っていたようだが、それ以外は祖母がひとりで作業していた。
 ブリを使う「かぶら寿し」に対して、「だいこん寿し」は庶民の味だ。家庭によって麹の加減や使う魚が違ったりする。ニシンとサケとサバの3種類入るのが我が家風である。本漬けする期間は1週間から2週間。気温によって麹の発酵具合が変わるので、みんなが集まるお正月に一番おいしくなるよう、祖母は麹とご飯の合わせ方も毎年工夫していた。桶から麹の甘酒のような香りが漂ってくると、子ども心にもうすぐお正月がくるんだなと感じていたものだ。

 幼い頃は何も考えず当たり前のように食べていたが、祖母のだいこん寿しは“家族、親戚、大切な人に、おいしい物を食べさせたい”という思いの詰まったごちそうだったことに、自分の家族をもって初めて気がついたのだ。そして改めて祖母への感謝の気持ちがあふれてきたのだった。私にとって「だいこん寿し」は、優しかった祖母を思い出す今も忘れられない味なのである。

本田智世さんのプロフィール
石川県在住。野菜ソムリエプロ。(株)まつのの石川県のベジフルサポーターとして、地元ならではの品種や食べ方など美味しいベジフル情報を発信している。また主婦経験を活かした生活者目線で野菜・果物の魅力を楽しく伝える活動も展開している。

※2017年1月10日より資格名称が変更しております。詳しくはこちら

取材 / 文:野菜ソムリエプロ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ