野菜ソムリエの思ひ出の味
叔母の牧場で育てた大根

 隣町で牧場を営んでいた叔母は自家用に野菜も育てていた。冬になると、畑から抜いたばかりで土がついたままの丸々と太った大根を20本ほど軽トラックに載せ、我が家へも届けてくれていた。叔母の大根は、祖母が「小煮しめ」にして食べさせてくれた。小煮しめとは、福井県のおせちには欠かせない郷土料理である。一口大に切った大根、人参、里芋、結び昆布、厚揚げなどを大きな鍋いっぱいに入れて、しょうゆ、砂糖、みりん、水でコトコトと煮るという素朴で懐かしい家の味だ。雪遊びをした後、石油ストーブに載っていた鍋から味のしみた大根をとりだして、こたつにあたりながらおやつがわりによく食べていた。冷えた身体が温まって、おいしくてとても幸せだった冬の風景を思い出す。

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 実家があったのは田畑の多い地域で、季節ごとにいろいろな野菜をいただく機会が多かったが、叔母の野菜は、大きさ・みずみずしさ・素材の甘さがそれらとは別格だった。特に大根はおろして食べるとシャキシャキとしていて、味の違いが際立っていたように思う。叔母の畑は牛舎の横にあり、野菜は牛や家族の健康を考えた無農薬栽培だった。とても働き者の叔母で、早朝から牛の世話をして、ちょっとした合間に畑作業をしていたようだ。子どもながらにも肥えた土地で野菜を作ることのぜいたくさやおいしさを感じ、言葉ではなく味で教えてもらっていた。
 野菜ソムリエとなったのは、こういった子どもの頃の体験を通して、野菜を食べるだけでなくもっとおいしく楽しむための知識を身につけたいとも思ったからだ。資格取得後は、家庭で料理を作る時に、旬・栄養・色・食べ合わせ・家族の体調の考慮などまで自然と心がけられるようになっている。今後は、様々な情報や商品がある中、安全な食べ物を選び、食べる事の大切さを伝える事ができる野菜ソムリエプロになりたいと思う。

 さて、幼い頃から食べ馴染んでいる「小煮しめ」だが、今は、嫁ぎ先の父が自家用に栽培した大根をつかって、母がこしらえてくれている。実家の祖母の味と、嫁ぎ先の母の味では、家ごとの微妙な違いがあるが、どちらも大好きな味であることに変わりはない。そして、それらの味に近づこうと作ってはみるのだが、今ひとつ納得のいく味には至っていない。まだまだ修業中なのである。

高桑弓子さんのプロフィール
福井県在住。野菜ソムリエプロ。地元の食材で、手軽に楽しくかわいく、おいしく食べる事を考えるのが大好き。平成28年11月にパン屋をオープン。野菜たっぷりのサンドイッチなどレシピ考案を担当。野菜ソムリエプロが教える「食美健康教室」というイベントの料理担当もさせていただいている。

取材 / 文:野菜ソムリエプロ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ