野菜ソムリエの思ひ出の味
母の家庭菜園のミニトマト

 幼い時分から実家の庭では母が家庭菜園をしていた。小学生の頃はミニトマトの苗が4本ほど植えられていて、真っ赤に色づいたミニトマトを見つけるのがとても嬉しかった。また甘酸っぱくて本当においしく、いちご狩りならぬトマト狩りを楽しんでいた記憶がある。ラジオ体操から戻った夏休みの朝や学校から帰ってきた夕方、母と一緒に庭に出てミニトマトを収穫してはその場でよく食べていた。暑さが厳しい真夏日の水分代わりでもあった。

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 中学生になるとお弁当生活がはじまった。ミニトマトが収穫出来る時期には、お弁当には必ず菜園のミニトマトが彩りとして入っていた。夏が終わりに近づき9月の名残の時期になると段々ミニトマトが小さくなってくるので「あぁ、もうそろそろトマトの時期も終わりだなぁ。」と思いながら食べていたように思う。中学生から社会人になり結婚するまでの十数年、母はほとんど毎日お弁当をつくってくれていた。中学から高校の6年間で、お弁当を持って行かなかったのは10日もなかっただろう。時には庭から採った新鮮な野菜を使い父と姉、妹の分も含めて毎日4つのお弁当箱がキッチンに並んでいた時期もあった。
 当時の私はコンビニのパンを持ってきている友達がとても羨ましく「私もパンを食べたいなぁ」などと思っていた。だが、自分が家族を持ってお弁当をつくる立場となった今、家庭菜園の野菜でつくるお弁当のありがたみがよくわかる。家族の健康を考えてくれていたからこそ、毎日つくり続けることができたのだ。そして私も同じように家族の健康を一番に願いながら毎日の食事をつくり続けている。

 元々食べることが大好きで、キッチンに立つことも大好き。家庭を持つようになり、食に興味はあるのだが知識が全くなかった自分に少し自信をつけたい。そう思い、友人が教えてくれた野菜ソムリエの資格に挑戦したのは5年前のことだった。資格取得を通じて食の大切さも改めて実感することができた。最も変わったのは、食事はなるべく手づくりするようになったことである。どんなに忙しくてもなかなか時間をかけられなくても凝った料理でなくても、手づくりで野菜のある食卓にしたい。そして、それまでは気にしていなかった旬や産地を意識して、なるべく地元の生産者さんのものを買うようにもなった。
 現在は飲食店でメニュー考案に携わっている。家族の健康を考えて取得した野菜ソムリエの資格だが、お客様にもっともっと喜んでもらえるよう、メニューにも知識をいかしていきたいと考えている。また、子育てをしている中で子どもの野菜嫌いに悩むお母さんたちが多く存在することを知った。自分と同世代のお母さんたちの強い味方になれたらとも思っている。

 さて、私が子どもの頃には庭の片隅にあった母の家庭菜園は、今では庭の9割を占めるほどに拡大した。実家の隣に居を構えているため、時々母を訪ねて子どもたちと一緒に収穫させてもらうこともある。それとは別に市の団体が主催している「こども農園」に参加し、野菜の植付けから、間引き、水やり、草取り、収穫なども行っている。子どもたちと一緒に畑をすることは、いつのまにか習慣化していた。それは、幼い頃に母と一緒に摘んで食べたあのミニトマトのおかげかもしれない。

新田恵美さんのプロフィール
石川県在住。野菜ソムリエ。二児の母。現在はカフェでランチのメニュー提案や調理を行っている。

取材 / 文:野菜ソムリエプロ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ