野菜ソムリエの思ひ出の味
魚屋 牧さんの畑のゴボウ

 友人から紹介されて魚屋の牧さんの広大な畑を手伝うようになったのは、今から4年ほど前のことである。何故に魚屋さんが畑を?と思ったら、牧さんの奥様は農家のご出身とのこと。買った野菜では満足出来ず、ご自分で栽培することになったらしい。畑に出るのはお店が休みの日曜日。ご主人とご友人との週末の楽しみでもあったようだ。私は草取りなどを少し手伝い、野菜をいただいていた。完全無農薬、触って気持ちのよいフカフカした土で栽培された野菜は、やわらかく香りがよいものばかり。食べては感動の嵐だった。

 そんなある日、直径4〜5cmほどの大きなごぼうに遭遇。牧さんに伺うと、それは「大浦ゴボウ」という品種だった。大きいものは直径10cmにもなるとのこと。以前、ご主人が京都にいらして、このゴボウをご存知だったことから栽培していたようだ。料亭などでは海老のすり身などを詰めて料理されるものだという。
 ご主人から「やわらかさに驚くから中に肉を詰めて炊いてみて!」といただいた。アドバイス通り、肉詰めにして出汁醤油で炊いて食べてみた。元々ゴボウは大好きだったが、火を通して味を染み込ませただけなのに繊維を感じないやわらかさ、ストレスを感じずに育った風味の優しさに感激した。そして野菜も人間と一緒、環境と栄養とストレスでこんなにも健康度合いが違う。命をいただいていると、野菜に対してもそれをより強く感じるようになった。
 残念ながら、あのホクホクとおいしい牧さんの畑の大浦ゴボウは、あれ以降一度も食べる機会に恵まれていない。熊本地震の影響もあり、牧さんは借りていた畑を返されてしまったのだ。遠い場所にあらためて畑を借りられたようだが、様々な事情から今は里芋くらいしか植えていないとのこと。私の方も家の事情で地震以降は畑にいけなくなってしまったが、いつの日かまたお手伝いを再開し、あのゴボウに会える日が来たらいいなと思う。

 大学在学中に歌手デビュー、卒業後はラジオ番組でMCをするようになった。栄養士の資格を保有していることから、番組で健康や栄養に関する内容は私が担当していたが、新しい野菜や健康効果のことなどは大学で得た知識では足りないし、学説の変化にも対応しきれていないと感じていた。また、がん予防に関する話には野菜の話が不可欠だった。
 そんな時、地元のNHKでお料理コーナーを担当していた友人から野菜ソムリエを取得すると聞いた。それが、私が野菜ソムリエとなるきっかけだった。野菜ソムリエプロは平成21年に取得。この春からは、小野副知事と小山薫堂さん発案の熊本県を「食」で復興する「グルメツーリズム」のコーディネーターを務め、イタリアンの落合シェフと組んで仕事をしている。野菜ソムリエプロであり、栄養士であり司会も出来るコーディネーターとして、年内はお手伝いしていくつもりだ。今後もこれまでの経験をいかして、熊本の「食」「野菜」の魅力を県内外に発信し、地震の辛い経験を無駄にしない、地震前よりも元気にするお手伝いをしていきたいと思っている。

右田 昌子(みぎた あきこ)さんのプロフィール
熊本県在住。野菜ソムリエプロ。熊本県立女子大学食物学科(現:熊本県立大学)で栄養士を取得。「食」「健康」をテーマにした番組に携わる。野菜ソムリエの資格取得後も、MC・ディレクター、「食」のプロジェクトのコーディネーターなどを務める。
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written by

タナカトウコ

/取材・文

野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
ホームページ http://urahara-geidai.net/prof/tanaka/
インスタグラム toko_tanaka