取材ノート
日本の野菜はなんとおいしいのだろう。
その感動から生まれた「日本の野菜を食べるプロジェクト」

「野菜たっぷり」「国産野菜100%」など
野菜好きにはたまらないワードがずらりと並ぶ
長崎ちゃんぽんの専門店「リンガーハット」。
 
近年では、なんと国産野菜を480gも使った
“麺なし”バージョンの野菜たっぷりスープまで登場!
 
そこまで国産野菜にこだわる理由が気になり、
株式会社リンガーハット 広報チームの三宅さんに
お話を聞いてみることにしました。

今回お話を伺った広報チームの三宅久美子さん。
野菜ソムリエ、食育アドバイザーなどの資格も保有。

三宅さんは、野菜ソムリエの資格をお持ちなのですね!

そうなんです! 2008年から「日本の野菜を食べるプロジェクト」が発足し、ちゃんぽんに使うすべての野菜を国産化することになりました。プロジェクトの応援団には野菜ソムリエの王理恵さんを迎えることになりまして、産地や店舗をまわる時に自分も同じレベルでお話をしたいと思い、取得に至りました。

なるほど。「日本の野菜を食べるプロジェクト」は、なぜ、発足することになったのですか?

発足前、キャベツや自社工場栽培のもやしは約35年前から国産の新鮮なものを使うことにこだわっていましたが、それ以外の野菜は輸入物を使っていました。

契約農場(キャベツ)

代表取締役会長兼CEOの米濵が日本フードサービス協会の会長をしていた2006年からの2年間、数多くの農家さんを訪ねました。そして野菜を試食する度に「日本の野菜はなんておいしいのだろう。この新鮮な野菜でちゃんぽんをつくったら、どんなに美味しいだろう」と感じていたそうです。
 
そこで日本フードサービス協会の会長任期を終えてリンガーハットの業務に復帰した2008年、すべての使用野菜を国産化する「日本の野菜を食べるプロジェクト」を立ち上げることになったわけです。1年後の2009年10月には、リンガーハットグループ全店舗で野菜の100%国産化が達成されました。

契約農場(たまねぎ)

契約農場(にんじん)

なお、野菜国産化に取り組む背景には、輸送時間短縮による鮮度保持と安全・安心、フードマイレージを小さくして地球環境保護に役立てたい、食糧自給率の向上に役立てたい、という思いもあります。

グループ全店舗で国産化とは、相当なボリュームですね。

そうですね。プロジェクト発足当時のリンガーハットグループは、「長崎ちゃんぽんリンガーハット」の他、「とんかつ浜勝」「長崎卓袱浜勝」の計544店(2017年2月現在では計754店)ありました。グループ全体で1年間に使用する野菜の総量は当時で1万2400トン。一部の野菜においては、国内生産量が当社の使用量を下回るものもありました。

生産量が下回っている野菜はどう対処したのですか?

すでに国産化していたキャベツの契約農家さんにお願いして他の品目も栽培してもらうことから始め、全国の契約農家さんたちと連携して調達システムを確立していきました。どうしても年間調達が難しかったものは別の野菜に変更してレシピを調整しました。

コストもだいぶアップしそうですが・・・

100%国産化にするにあたっては、野菜だけでなく、工場の設備も一新しなければならず、値上げせざるを得ない程の膨大なコストがかかりました。世の中はデフレで低価格競争を繰り広げていましたので、付加価値があるとはいえ、値上げに踏み切るのはとても勇気がいることでした。

富士小山工場

お客様からの反響はどうでしたか?

100%国産化するタイミングでは、定番メニューの「長崎ちゃんぽん」の野菜の量を225gから255gに30g増量し、スープもブラッシュアップした上で、値上げを実施しました。それから、野菜国産化のフラッグシップ商品として480gもの野菜を使用した「野菜たっぷりちゃんぽん」も新メニューに加えました。

野菜たっぷりちゃんぽん

これらを先行販売した鹿児島県と静岡県の店舗では、とても反響がよかったんです。会長兼CEOの米濵は、静岡県の店舗のカウンターで男性が美味しそうに野菜たっぷりちゃんぽんを食べている姿をみて、これはいけるかも!とも感じたそうです。今では、付加価値に共感してくださる女性のお客さまも非常に多くみられます。

社内の反響はどうでしたか?

パートさんにアンケートをとったところ、「いいものを提供する会社に勤められてよかった」「付加価値のあるいい商品だから、胸をはって販売出来ます」といった決意表明のような嬉しい答えがたくさん返ってきました。このプロジェクトを機に、会社が一丸となれたと思います。
 
じつは野菜の国産化までにオペレーションの改革も進んでいました。店舗へ毎日配送される新鮮な国産野菜は長い時間火を加えずともおいしく仕上がるため、調理時間の短縮になりました。また、直火&中華鍋を、オール電化&一杯ずつ小鍋でつくるオペレーションにも変えました。これらの改革で、厨房が暑くなり過ぎることがなく、重たい中華鍋を持たずによくなり、従業員の負担が軽減されました。オール電化にしたことで、ショッピングモールのフードコートへの出店もしやすくなるというメリットもありましたね。

いいことずくめだったのですね!
とはいえ、安定して国産野菜を仕入れるのは大変では?

そうなんです。野菜は気象の影響を受けやすいですからね。仕入れが落ち着かず、ちゃんぽんに使う野菜がコロコロ変わってしまうこともあります。昨年は、北海道産のコーンが台風による被害で確保困難になり、代替え品として国産の豆苗を使うことになりました。しかし、野菜の国産化を掲げる以上は、頻発する天候不順にも果断に対応しなければなりません。こういった経験を重ねる度に、日本の野菜への思いをより一層深くしています。

店舗に掲出している原産地表示

なるほどー。定番メニューの長崎ちゃんぽんでも、
場合によっては具の野菜が違うこともあるんですね。

はい、そうです!
ちなみに、2010年からはちゃんぽん麺に使っている小麦も国産化しています。2011年から皿うどんの麺の小麦を国産化、2013年からはぎょうざの具材まで国産化していますよ。

ちゃんぽんに使っている国産野菜

昨年からは6年振りに「きくらげ」が復活しています。2009年時点では国産きくらげの国内自給率はわずか3%。安定確保が難しいため、やむなく使用食材から外していました。しかし鳥取県をはじめとした日本各地のきくらげ産地の協力を得て、また一歩、お客様にお出ししたい理想の長崎ちゃんぽんに近づけたと考えています。

じわじわとブラッシュアップされているのですね。
今度食べる時は、マニアックな目線で確認してみます(笑)

はい、そうしてみてください(笑)。
他にも、お客様のニーズを受けて“ちゃんぽん麺なし”というメニューも展開していますよ。

もはや、ちゃんぽんでは無いじゃないですか!(笑)

そうですね(笑)。野菜たっぷりちゃんぽんの麺なしバージョンで、メニュー名は「野菜たっぷり食べるスープ」です。麺なしでもおいしく召し上がっていただけるよう、スープにもひと手間加えています!

今後のじわじわブラッシュアップはどんな感じですか?

食材で言えば、野菜の甘さ(糖度)などにもこだわって取り組んでいきます。野菜がもっともっとおいしくなるよう、堆肥の工夫や栽培技術の向上に務めるなど契約農家さんたちは日々様々な取り組みをしてくださっています。年々、野菜のおいしさが増していると思いますよ。
 
それから、「もっと美味しく!もっと楽しい!食べ方体験」として、“myちゃんぽん”を楽しめる特別店舗が出来てきています。

“myちゃんぽん”ですか?

スープ、麺を選び、お好みで具材を追加オーダーして、お客様好みの“自分流・わがまま・アレンジ”にお応えしたちゃんぽんをおつくりするスタイルです。この自分でアレンジする“myちゃんぽん”をつかって、店舗での食育活動なども定期的に行っています。
 
対応店舗、詳細については、下記をご覧ください。
リンガーハットの特別店舗 myちゃんぽん >

それは楽しそうですね!!今度行ってみますね。
 
リンガーハットの長崎ちゃんぽんのファンでしたが、
そこにこめた思いを知り、ますますファンになった筆者でした。

取材協力・画像提供:株式会社リンガーハット http://www.ringerhut.jp/

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written by

タナカトウコ

/取材・文

野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
ホームページ http://urahara-geidai.net/prof/tanaka/
インスタグラム toko_tanaka