野菜ソムリエの思ひ出の味
手間ひまかけてつくる「こんにゃく」

 結婚を機に埼玉県小鹿野町(旧両神村)で畑を借り、夫婦で野菜づくりを楽しむようになったのは、今から17年前のことだ。それまで農作業の経験は皆無。父が趣味の畑で野菜を育てている様子をなんとなく見ていた程度である。夫も野菜栽培については素人同然だった。二人で野菜栽培の本を読みながら、見よう見まねでいろいろな野菜をつくり始めたのだった。

 畑を始めて2年目の春、こんにゃく芋の栽培にチャレンジすることにした。その地はこんにゃく芋の産地だったので「こんにゃく芋からこんにゃくをつくりたい」という軽い気持ちからだった。こんにゃくは食べられる芋の状態になるのに3年かかり、育てるのが大変だと地元の人からは聞いていたが、興味の方が上回ってのことだった。
 直売所でこんにゃく芋の赤ちゃん「生子(きご)」20個と「3年目のこんにゃく芋」2〜3kgを購入した。こんにゃく芋はごつごつでワイルドな見た目と違ってデリケートで、病気に弱く手間暇もかかるとのことだ。しっかり本で勉強して、心して取りかかった。植付けの10日程前には牛ふんたい肥で耕して石灰をまき、まいてから植え付けまでに雨が降ったらもう一度石灰をまく。私が耕運機で耕し、縄を張って、夫が10~15cmくらいの溝を掘り、夫婦一緒にこんにゃくを植えていく。慣れない作業は無駄な力が入るため、初回はかなりの疲労困憊だった。
 真冬の収穫を迎えるまでの間は草取りと施肥を適宜実施した。こんにゃく芋は葉同士が風でこすれるだけで腐ってしまうという。なるべく風通しがよくなるよう定期的に草を取るのは大変な作業だった。誤ってこんにゃくの芽をかいてしまうこともしばしば。主に夫がかいてしまっていたが(笑)。それでも、8月のこんにゃく芋は“ヤシの木”みたいで見ていて気持ちがよかったことを思い出す。
 そしてついに12月、なんとか無農薬のまま収穫にこぎつけた。生子は小さいこんにゃく芋になり、3年目のものはそこそこの大きさになったので早速こんにゃくづくりに挑戦。こんにゃく芋を洗ってすりおろし、水と混ぜてなめらかにしてから水酸化カルシウムを混ぜて加熱。しっかり捏ね混ぜてから型に入れ、固まったら茹でて…と、こんにゃくづくりもそれなりに手間がかかる。その分、出来上がったぷるぷるのこんにゃくに感じたおいしさは格別なものだった。

 たくさん採れたこんにゃく芋は実家にもおすそ分けし、父ともこんにゃくづくりを楽しむことにした。何も加えないプレーンなこんにゃくの他、青海苔を加えた緑色、ゆずの皮を加えた黄色、唐辛子粉を加えた赤色とカラフルなこんにゃくも楽しむことになった。しかしそこで事件が発生! 青のりと乾燥わかめを間違えて使ってしまい、水分を含んで膨らんだわかめがこんにゃくの間からべろべろと出てきてグロテスクな仕上がりになってしまったのだ。また、唐辛子粉を入れ過ぎて真っ赤になったこんにゃくは、あまりに辛くて食べられないという事態に。紆余曲折ありながらもたくさんのカラフルなこんにゃくが完成し、楽しいこんにゃく大会となった。「原料(こんにゃく芋)づくり」「こんにゃくづくり」「こんにゃく料理づくり」と3度楽しめるのがこんにゃく芋栽培の魅力であった。

 現在、畑では四季折々の野菜を数十種類“つくって”いる。野菜づくりが発端で野菜ソムリエとなり、今では料理教室で野菜料理を“つくり”、それがきっかけでレシピ開発や商品開発の仕事にも関わり“今までにないものづくり”をしている。また農業体験をアシストすることから始まった“味噌づくり”や“米づくり”を毎年行い、食育活動や食を通じた“思い出づくり”もお手伝い。木で遊ぶことも好きなのでドリルや電動のこぎりなどを使って傘立てや椅子など趣味の“ものづくり”もする。
 野菜でも何でもものづくりには手間と時間がかかる。買うのは簡単だが、イチからつくるのは大変。大変だけれども“つくる”ことは楽しい。もともと“ものづくり”が好きで建築の大学に進み、設計業務に携わった。“つくる”ことの楽しさを改めて感じ、今もこれからも様々な“つくる”を続けていきたいと思っている。

牧野悦子さんのプロフィール
埼玉県在住。野菜ソムリエプロ。一級建築士の知識を活かし住と食の両面からライフスタイルを提案。畑で野菜を育てながら野菜料理教室、講演活動、子育て支援食育講座など多数開催。商品開発や執筆なども行い野菜果物の楽しさを様々な世代へ届けている。2015年野菜ソムリエアワード金賞受賞。
ブログ 「農所 台所」farm&kitchen https://ameblo.jp/etsumaki/
photo
written by

タナカトウコ

/取材・文

野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
ホームページ http://urahara-geidai.net/prof/tanaka/
インスタグラム toko_tanaka