野菜ソムリエの思ひ出の味
家族で大きさを競ったジャガイモ堀り

 子どもの頃は、毎週のように家族で郊外へ出かけていた。アウトドア派の父の影響である。金曜日の夜になると夕食もお風呂も済ませてキャンピングカーに乗り込み、実家のある東京都から2~3時間離れた北関東の各所へと移動する。そこで週末を過ごして、日曜日の夜に帰宅する。子どもたちは寝ている間に目的地に着いたが、父は仕事を終えてから夜遅くに運転をしていた。今思えば頭が下がる。そんな生活を送っていたので、3人の兄弟はみんなたくましく育ち、都会育ちながらどろんこになる機会も多かった。
 そのひとつが、親戚がやっていた畑の一部を借りて自分たちで野菜を育てることだった。春にはアスパラガスやキャベツ、夏にはトマトやナス、秋にはサトイモやピーマン、冬には白菜やホウレン草など、季節ごとに土を耕すところから、種まき、収穫までを体験した。まだ小さかった弟たちは、畑仕事に飽きて虫取りやボール遊びをすることもあった。お世話に行けない週には、親戚のおじさんや近所の人たちが代わりに手入れをしてくれていたので、ほとんどの野菜は順調に成長し、私たちは無事に収穫することができた。

 収穫作業で私たち兄弟が最も楽しみにしていたのは、ジャガイモ堀りだった。イモを傷付けないように位置を決めてクワを入れ、土の中から根っこについたままのジャガイモがゴロゴロと出てくるのがたまらなく楽しかった。「こっちのが大きいよ!」など大きさを競った思い出が今も心深く残っている。ねこ車いっぱいに収穫できると誇らしいものだった。
 ジャガイモは種芋から育つので、収穫時に種芋の形がまだ残っており、芽が出て、茎が伸びていったところが目で見える。自分が植えたものが育って、新しいジャガイモができたんだという感動が他の野菜よりも大きかったこともあるだろう。一度に大量の収穫ができる楽しさとうれしさ。家族総出で収穫するイベント的な時間でもあった。
 収穫後の楽しみは、もちろん採れたてを食べること。土を洗い流し、皮付きのままふかし、砂糖醤油をつけて食べる。ホクホク感と甘じょっぱさがたまらない味わいで、おかわりの手が止まらない。ひと口でパクっと食べられる小粒なものが私のお気に入りだった。採れたてのおいしさを子どもながらにも素直に感じられた体験だった。

 自分たちで育てた野菜が実をつけ収穫できるありがたさとよろこびを知ることで、私たち兄弟が野菜嫌いになることは一切なかった。見た目が多少不格好でも味わいは最高であることを自ら経験しているため、食品ロスを減らす意識も幼いころから身についていた。
 野菜を楽しく育て、おいしく料理をして、家族でしあわせを共有するという、この原体験が基礎となり、大学では栄養学を専攻し、管理栄養士の免許を取得して、食品メーカーに就職した。その後野菜ソムリエの道を目指すという人生にも結びついているように思う。

 野菜ソムリエプロの資格を取得したのは2017年である。遠距離恋愛をしていた現在の夫との結婚を意識するようになった頃だった。退職後の生活を見据えて再び栄養の勉強をしようと考えていた時に、野菜ソムリエならこれまでの知識や経験も活かしつつステップアップできる職業だと思ったからだった。資格取得後は、スーパーの産直コーナーに必ず立ち寄るようになった。見慣れない野菜も購入してみて、どのような野菜なのか調べたり、調理して味わったりして、新たな発見を楽しんでいる。結婚を機に東京から大阪へと引っ越し、道の駅や直売所がより身近になった。休日に出かけてはたくさんの野菜を購入してレシピ考案をしている。

小島 香住さんのプロフィール
東京都出身、大阪府在住。野菜ソムリエプロ、管理栄養士。大学卒業後、大手食品メーカーに就職。コンビニ向けの営業とメニュー開発、業務用商品の企画開発やブランディングを経験。野菜ソムリエプロの資格取得後退職し、現在は野菜・果物を使用したレシピ発信や、コラム執筆を中心とした活動をしている。
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written by

タナカトウコ

/取材・文

野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
ホームページ http://urahara-geidai.net/prof/tanaka/
インスタグラム toko_tanaka