野菜ソムリエの思ひ出の味
叔母の長芋

 2008年「お米の郷(クニ)の人だもの」のキャッチフレーズで米粉アイデア料理コンテストが開催され、私は米粉に長芋を合わせた「こめっこふわとろお好み焼き」でエントリーした。コンテストにはプロのパティシエたちも参加していたので、入賞は当然叶わないものと思っていたが、最優秀賞に選ばれたのは私のレシピだった。

 入賞以来、食への興味が俄然湧いた。正社員で働いていて多忙を極めていたのだが、私はいろいろなことに興味を持つ性格でもある。何か資格をとりたいと思い、ネット検索をしていて野菜ソムリエに辿りついた。講座での人との関わり・コミュニケーションについての勉強は、仕事としている司会業ともリンクする。食の流通を中心に見据えると様々な関わりがみえてきて、興味はさらに広がっていった。以前は値段と新鮮さのみが選ぶ基準だったが、スーパーで見かける野菜や果物にも個性があることを知り、買い物自体が楽しみに変わっていった。
 野菜ソムリエの資格取得が一期一会の出会いとなり、私の財産となり、産地訪問・レシピ開発と際限なく広がる世界はワクワク感でいっぱいだ。店舗での試食販売やイベントの司会で、様々な声を聞けることもこの上ない喜びである。未来を担う子どもたちへ「食べることは楽しいよ、おいしいよ」と伝えていきたいとも思っている。

 さて、私の故郷は旧南部藩のエリアにある。秋じまいが済み、庭から望む奥羽山脈に雪の冠が見える頃になると、叔母が軽トラックいっぱいの秋野菜を運んで来てくれた。長芋・ごぼう・里芋などだった。実家は米農家で野菜は栽培しておらず、野菜どころへ嫁いだ叔母が季節ごとに旬の野菜を届けてくれるのが常だったのだ。
 長芋が届くと、決まってその日はとろろご飯だった。炊きたての熱々ごはんに、すりおろした長芋とお醤油をかけて食べる。当時の私にとってはご馳走だった。あまりのおいしさにおかわりしていたことが今も懐かしく思い出される。長芋のネバネバは、雪深い東北での暮らしの元気の源にも貢献していた。
 千葉で家庭を営んでからも、季節になると叔母からは長芋が届いた。家族に「今年も届いたよ」と話し、食べる度に叔母の愛情を感じていた。我が家ではお好み焼きには必ず叔母の長芋を入れる。ふっくらとおいしく仕上がるからである。それでコンテストに出した「こめっこふわとろお好み焼き」のレシピにも、迷わず長芋を入れたのだった。

 今年のお盆に会った時、「歳をとってもう長芋をつくれないし、家族にもこの技術を継承出来ないので、親戚に配れない」と叔母は寂しそうに話していた。「毎年、種芋を掘り返しては翌年植えて、畑は機械で耕せても、大きくなった長芋を掘り起こす技術は簡単では無いから」と。長芋についてゆっくり聞いたのは、その時が初めてだった。そんなに大変な思いをして栽培されたものだったとは。もう届かないであろう叔母の長芋に思いを馳せる今冬である。

原 真智子さんのプロフィール
千葉県在住。野菜ソムリエ。Jr和食マイスター・フードスタイリスト・フードコーデネイター・きのこマイスター・えのき氷インストラクター・ラッピングコーディネイター・デコ食パン認定講師・食生活改善推進員(食育アドバイザー)・飾り巻き寿司インストラクター・築地魚がしコンシェルジュ・おさかなブレインコンシェルジュ。
インスタグラム:まんぼママ
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タナカトウコ

/取材・文

野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
ホームページ http://urahara-geidai.net/prof/tanaka/
インスタグラム toko_tanaka