取材ノート
日本の食で、日本を元気に。「フードアルチザン(食の匠)」活動 後編

2015年9月2日UP
現時点では34種類もの展開がされている、地産地消のブランド「フードアルチザン(食の匠)」。前編で紹介した「安納いも」の他にも、それぞれに興味深いストーリーがあるようです。イオンリテール(株)エリア政策推進本部 本部長 岡澤正章さんに、引続きお話を伺いました。

フードアルチザン活動は、
「安納いも」と「桜島大根」から始まったそうですが
他には、どのようなものがありますか?

岡澤さん:
例えば、野菜でいうと、青森県の「オコッペいもっこ」、岐阜県の「宿儺かぼちゃ」、京都府の「佐波賀だいこん」、大分県の「赤採りトマト」などがあります。果物でいうと、青森県の「カシス」、岩手県の「山ぶどう」、徳島県の「木頭ゆず」、沖縄県の「アセローラ」等。他に加工品・調味料では、岐阜県の「母袋燻り豆腐」、石川県の「いしる」など、多品目に渡って展開をしています。

「オコッペいもっこ」とは、名前からして興味津々です。
どのようなものなのでしょうか?

岡澤さん:
青森県大間町奥戸(オコッペ)地区で栽培されている全国的にも稀少な馬鈴薯「三円薯(さんえんいも)」のことです。「三円薯(さんえんいも)」は、明治38年にアメリカから青森県に導入され、県の奨励品種でもありましたが、いつしか栽培されなくなり、消滅したと思われていました。しかし今から7〜8年前、奥戸地区を訪ねていた県民局の方が偶然に発見。食味がよく、収量性にも優れていることから、奥戸地区では自家用として作り続けられていたのでした。JAや行政とともに知恵を出し合い、栽培法の確立や種芋の選別・管理をし、勉強会やテスト販売等を経て、2013 年には「大間町オコッペいもっこ振興協議会」を設立し、商品化に至りました。「オコッペいもっこ」は、淡白でいてコクがあり、何個食べても飽きがこない味わいですよ。

淡白でいてコクがある・・・
ますますオコッペいもっこへの興味が湧きました。

「佐波賀だいこん」や
「宿儺かぼちゃ」も気になるのですが。

岡澤さん:
葉の広がり方が個性的な「佐波賀だいこん」は、京都府舞鶴市の佐波賀地区が発祥です。江戸時代から栽培され、昭和30年頃には舞鶴市の特産として1,100トンの出荷量を誇っていましたが、栽培期間に半年もかかるという経済効率の悪さから一度は生産者が減少していきました。しかし、かつて「佐波賀だいこん」の育成に尽力していた方の曾孫である佐藤正之さんが復活を願い、試験場に保管されていた種の提供を受けて2010年に生産の取り組みが開始されました。2012年には「京の伝統野菜 佐波賀だいこん食文化振興研究会」を設立し、生産量は年々増加しています。また、葉の部分を漬け物に加工して販売し、経済効率アップに役立てています。身がしまっているので、天ぷらで食べると非常においしいです。

大根の天ぷらとは!
ぜひ一度食べてみたいものです。

岡澤さん:
「宿儺かぼちゃ」は、へちまのような独特な形状と味にこだわり、品種改良を行っていないかぼちゃで、地元の偉人「両面宿儺」にちなんで名付けられています。2009年に生産量が大きく減少したことから、状況を打開するために関係団体と弊社が連携し「飛騨高山・宿儺かぼちゃ 食の匠推進協議会」を設立しました。農業大学の実地研修の受け入れや、後継者育成のための婚活サポートなど、多角的に地域活性化のお手伝いもしています。
「宿儺かぼちゃ」の味の特徴は、ホクホクとした食感とオリゴ糖を多く含む強い甘さです。アイスクリームやプリン、ロールパンなどの加工品へも展開していますよ。

婚活に、スイーツに。
「宿儺かぼちゃ」のスイートな展開も見逃せませんね(笑)

さて、「赤採りトマト」については、
他と毛色が違うような感じがしますが、

岡澤さん:
そうですね。先に紹介したものと違って、品種でなく「一番おいしい状態で消費者へ届けたい」という生産者の熱い思いから生まれた商品です。通常、店頭で販売されているトマトの多くは、流通の都合から、青い状態で収穫され、店頭に並ぶまでの間に赤くなります。しかし、赤く熟れた状態で収穫・出荷しようと誕生したのが「赤採りトマト」です。

岡澤さん:
当初は様々なリスクから、商品化の実現は不可能と言われていましたが、生産者と、JAおおいた、大分県、イオン九州(株)が「赤採りトマトフードアルチザン(食の匠)プロジェクト」を立ち上げ、試行錯誤を重ねて商品化を実現。その結果、味のよさから大人気商品となりました。今では、「赤採りトマト」の生産者は55名に増え、生産量もゼロから600トンへと大幅に増えました。「赤採りトマト」は、九州だけでなく、東京の店舗でも時々販売することがありますよ。

生産者さんの熱い思いが
かなった商品なのですね。

岡澤さん:
フードアルチザン活動では、展開商品の人気も高まってきています。岩手県の「山ぶどう」、青森県の「カシス」、徳島県の「木頭ゆず」を使ったチューハイです。

フードアルチザン活動には、
野菜ソムリエが関わることもあると聞きましたが。

岡澤さん:
イベントやセミナー等で、協力していただくことがあります。野菜・果物のおいしさを伝えるプロである野菜ソムリエの口から情報を伝えてもらうこと、また、食べ方提案のサポートをしてもらうことで、新たな価値の創成につながっていると思います。

最後に、フードアルチザンにおける
今後の展望をお聞かせください。

岡澤さん:
まずは、現在34種類の活動を50種類、100種類まで増やしていって、全都府県を網羅できればと思っています。また、各地の優れた商材をしっかりとブランド化して、地域の産業の柱にしていければと思っています。

地域と連携して、食文化を未来へつなぐだけでなく、
多角的に活性化もはかるという素晴らしい取り組みである
「フードアルチザン(食の匠)」活動。
ひとつひとつの背景に潜む魅力溢れるストーリーにも
非常に感銘を受けました。
今後、日本のどこかでどのような食文化が発掘され、
フードアルチザンに名を連ねていくのか、
想像しただけでもワクワクしますね。

岡澤さん、今回は貴重なお話をありがとうございました。

取材協力
イオンリテール(株)
ホームページ http://www.foodartisan.jp/

取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ