今から20年ほど前、わが家の子どもたちがまだ幼かったころのことである。友人家族と農園を借りて、野菜を栽培することになった。もともと両家ともに野菜好き。自分たちでも育ててみたいねと話していたところに、近くで貸農園の募集があったからだった。
畑で野菜を育てるのは初めての経験。思えば、畑に足を踏み入れるのも、自分自身が子どもだったころに芋掘り体験をして以来のことだった。貸し農園では、じゃがいも・ミニトマト・モロヘイヤ・とうもろこしなどを植えた。それは、生まれて初めて野菜づくりと向き合った期間であったようにも思う。この時、新鮮な野菜のおいしさ、自分自身で丹精こめてつくったもののおいしさを実感した。同時に自然を相手にする農作業が思った以上に大変であることを知った。畑での経験を重ねるたびに、農家さんへの尊敬の念がふくらんでいったものだ。
なかでも思い出深いのは、一番よく栽培できた「じゃがいも」である。当時の私は栽培の知識がなく、ただただ一生懸命に水をあげに通う日々。じゃがいもはあまり水をあげる必要がないにも関わらず、毎日畑へと出向き、汗水たらしてお世話をしたものだった。
初収穫は2家族でワイワイとにぎやかにおこなった。親子で土まみれになりながら、中くらいの段ボール箱に山盛りのじゃがいもが採れた。掘りたては、まず蒸かして食べてみた。かなり小ぶりであったが、自分たちで掘ったじゃがいもは格別においしく、みんなあっという間にたいらげてしまった。揚げたり、味噌汁に入れたり、蒸かしたものをつぶして片栗粉を加えた「いももち」をみたらし味で海苔を巻いて食べたりと様々に楽しんだことも記憶している。
素人ながらも、とてもおいしいじゃがいもができたので、2家族だけで食べるのはもったいないと思ってご近所さんにもお裾分けをした。普段からお裾分けをしあっている仲だったが、この時の掘りたてじゃがいもはとりわけ喜ばれたものだ。おいしいものは多くのかたと分かち合いたいと思う気持ちは昔も今も変わらない。
当時栽培したじゃがいもは男爵だったが、近年は多くの品種が登場している。食感が違うものやカラフルなものも出回り、もうワクワクがとまらない。また、ナス科であるじゃがいもの花はとても可愛いらしいのだ。紫の花びらに黄色の花芯、白の花びらに黄色の花芯など、品種によって少しずつ色が異なるものもある。畑に遊びに来た友人の子どもたちに見てもらったり、小学校の料理教室ボランティアの際にお花クイズを出したり、サポーターをしている「チョクバイ!サイト」コラムでも紹介、職場のクッキングでもホワイトボードに写真を掲示するなど、野菜の成長する過程や変化を見てもらいながら、ひとつひとつの野菜に命が宿り、多くのかたの手を伝わってみんなのもとに届いていること、野菜はおいしくて楽しいことを伝えていきたいと思っている。
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タナカトウコ
/取材・文
野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
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