私が小学生だった頃、夏になると我が家の食卓には毎晩うどんが登場していた。父が無類のうどん好きだったからである。我が家のうどんは、エゴマ入りの冷汁をかけて食べる。その冷汁は、姉と私が一緒につくっていた。レシピは母から姉、姉から私へと受け継がれた。と、言っても、姉も私も見よう見まねで覚えたというのが正しい。
地元福島では「エゴマの種」を「じゅうねん」と呼ぶ。冷汁づくりは、まずじゅうねんを空炒りするところから始める。底が見えないくらいにたっぷりのじゅうねんをフライパンに入れ、焦がさないように空炒りをする。炒ったじゅうねんは、大きめのすり鉢でゴリゴリと擦りつぶす。そこに味噌を入れて擦り混ぜ、刻んだ大葉、スライスしたきゅうり、氷を加える。水を足して、醤油を少しずつ加えながら味を調えれば完成だ。いつも最後に味を決めるのは、料理上手な姉の役割だった。
冷汁は大きなすり鉢の八分目くらいまでの量をつくっていた。清鶴麺という福島の細めのうどんを茹で、水でしめたらそれぞれの器に盛り付ける。そこにたっぷりの冷汁をかけて食卓に出すのが常だった。父はあまり感情を表に出すタイプではなかったけれど、娘たちがこしらえた冷汁うどんは喜んで食べていたように思う。
結婚して実家を離れてからは、エゴマ入りの冷汁うどんを食べる機会がすっかりなくなってしまった。同じ市内に嫁いだものの、嫁ぎ先では食べる風習が全くなかったからである。
しかし夏になるとあのエゴマ入りの冷汁を懐かしく思い出し、無償に食べたくなる時がある。お店で売っていた冷汁のたれを買って食べてはみるものの、やはり子どもの時分に食べたあの味にはかなわない。姉と一緒にじゅうねんを炒り、すり鉢で擦ってつくったあの冷汁の味が私にとっての一番なのである。
野菜ソムリエの資格は、仕事で食育講座を開催する際に知識として身につけておきたいと思ったのがきっかけで、食育インストラクターの資格と合わせて取得した。資格を取得した後は、コミュニティ福島でさまざまな学びを深め、地元の方に野菜果物の素晴らしさを発信するなどの活動をしている。
今はコロナ禍で思うように活動できていないが、先日、キッズ野菜ソムリエ講座でご一緒させていただいた野菜ソムリエの先輩のように、いずれは私も同じような活動をしていけたらと思っている。まだまだ勉強しないと・・・だが。
タナカトウコ
/取材・文
野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
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