菜果図録
冬に美味しさを増す健康野菜 ほうれん草

 白菜、長ねぎ、大根、にんじん・・・・・・冬に旬を迎える野菜の中でも、すぐれた栄養価を誇る健康野菜として愛されているのが、ほうれん草です。原産地は西アジアのペルシャ(現在のイラン)付近といわれ、そこから中国方面へ伝わったものが「東洋種」、ヨーロッパ方面へ伝わったものが「西洋種」とされています。ほうれん草はヒユ科に分類され、根に近い部分の土っぽい香りは、確かに同じヒユ科のビーツやスイスチャードに似ているようにも感じます。

 農林水産省発表の「令和3年産指定野菜及び指定野菜に準ずる野菜の作付面積、収穫量及び出荷量」によると、ほうれん草の出荷量の第1位は群馬県19500トン、第2位は埼玉県19000トン、第3位は千葉県17000トン、第4位は茨城県16000トンと関東が上位を独占し、宮崎県11800トン、岐阜県10500トンと続き、北は北海道から南は沖縄県まで全国各地で生産されています。

東洋種、西洋種、交配種、サラダ用も

 16世紀頃に中国から日本へ伝来した東洋種は、現在は「日本ほうれん草」「次郎丸」などの品種があり、葉先がとがっていて、葉の切れ込みが深く、葉柄が長く、根元の赤みが濃いのが特徴で、葉が薄く、アクが少なく甘みがあり、おひたしなどに向いています。一方、江戸末期にフランスから伝来した西洋種は、現在は「ミンスターランド」「ノーベル」などの品種があり、葉が丸く、葉柄が短く、根元の赤みが薄いのが特徴で、葉が肉厚でアクが強いため、バター炒めなどに適しています。近年、主流となっているのは、東洋種と西洋種の長所をあわせ持つ交配種で、「ミラージュ」「クロノス」「オシリス」などがあり、えぐみが少ないため様々な料理に使えます。ちなみに、ほうれん草はアクの強さから生食には向かないことから、生食用に改良されたサラダ用品種もあり、「ディンプル」「赤軸ミンスター」「早生サラダあかり」などの品種があります。また、12月から2月にかけて出回る「ちぢみほうれん草」は、「朝霧」「雪美菜」などの品種があり、厳寒期に露地などで寒さにあてることで糖度を上げる寒締めという方法で栽培され、甘みの強さが人気です。

ほうれん草の栄養学

 ほうれん草100g当たりの栄養価を、同様に健康的な葉野菜として知られる小松菜と比較してみましょう。まずは、体内でビタミンAとなり、粘膜や皮膚を健やかに保つのに役立つ、抗酸化力にもすぐれたベータカロテンは、ほうれん草4200μgに対し、小松菜は3100μg。止血のビタミンと呼ばれるビタミンKは、ほうれん草270μgに対し、小松菜は210μg。赤血球の生産を助け、胎児の健やかな生育に欠かせない葉酸は、ほうれん草210μgに対し、小松菜は110μg。体内の余分な塩分を排出する働きをもつカリウムは、ほうれん草500 mgに対し、小松菜は690mg。免疫反応の調整や味覚を感じる細胞の新陳代謝に関与する必須ミネラルのひとつである亜鉛は、ほうれん草0.7 mgに対し、小松菜は0.2mg。腸内環境を整えるのに欠かせない食物繊維は、ほうれん草2.8gに対し、小松菜は1.9g。と、ほうれん草の圧勝という結果でした。ただし、意外なことに、鉄の含有量は、ほうれん草2.0 mgに対し、小松菜は2.8mgと、小松菜の方が豊富です。

ほうれん草の選び方、保存法、調理のコツ!

 葉の色が鮮やかで変色がなく、葉先までピンとして張りがあり、根の切り口や茎が太いものを選びます。
 保存の際は、乾燥しないように湿らせた新聞紙で包んでからポリ袋に入れ、葉を上にして立てて冷蔵庫の野菜室へ。長く保存したいときは、硬めにゆでて水気をしっかりと絞り、食べやすい長さに切って、食品用保存袋に薄く広げて入れ、密封して冷凍庫へ。凍ったまま調理に使えるので、とても便利です。
 ゆでる際は、葉や茎はもちろん、特に土が残りやすい根元は水に浸しておいてから流水でしっかり洗い、たっぷりの沸騰した湯に火の通りにくい根元を先に浸し、茎がしんなりとしてきたら葉まで浸してゆでましょう。ゆであがったら、すぐに冷水で冷ますと、色鮮やかに仕上がります。なお、ほうれん草に含まれるシュウ酸はえぐみの原因となりますが、3分間ゆでるだけで37~51%が除去されるというデータ(尿路結石症診療ガイドライン2013。年版より)がありますので、気になる場合は、ゆでてから使うのがおすすめです。


ほうれん草と牡蠣の煎り鍋

 ほうれん草がたっぷり食べられる一品です。たっぷりの汁で煮る鍋料理とは異なり、少ない水分で煎るように火を通します。牡蠣のうま味がしみ込んだほうれん草と豆腐は、他では味わえない美味しさです。味の決め手は上質な塩と日本酒を使うこと。お好みで召し上がる際にゆずやすだちを搾っても。

材料(3~4人分)
ほうれん草 1束
牡蠣 200g
豆腐 300g
大さじ2
小さじ1/2強
作り方
  1. ほうれん草はよく洗って水気をきり、4センチの長さに切ります。牡蠣は3%の塩水でふり洗いし、豆腐は食べやすい大きさに切ります。
  2. すき焼き鍋に、牡蠣と豆腐を並べ、全体に軽く塩と酒をふり、強火にかけます。
  3. 水分が出てきたら中火にし、ほうれん草を加え、水分で和えるようにして火を通し、火が通った具材からいただきます。
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written by

堀 基子

/文・写真

野菜ソムリエ上級プロ。J Veganist。冷凍生活アドバイザー。アスリートフードマイスター3級。ベジフルビューティーセルフアドバイザー。ジュニア青果物ブランディングマイスター。アンチエイジング・プランナー。受験フードマイスター。第6回・第8回野菜ソムリエアワード銀賞受賞。