柔らかな日差しを浴びて、植物が萌え出づる春。数あるスプラウトの中でも、もっとも身近なのは、かいわれだいこんではないでしょうか。かいわれだいこんは、だいこんの新芽を食べる発芽野菜。漢字で「貝割れ大根」と書くように、葉の形が口を開いた二枚貝のように見えることから、名付けられたといわれます。
日本での歴史は古く、今から千年以上も昔の平安時代中期に作られた辞書「倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)」に、「黄菜(おうさい)」の名で記載されているのが、野だいこんの若芽。もう少し後の平安時代中期に記された「宇津保(うつほ」物語」にも、辛みの強い「温菘(うんしゅう)」という浜だいこんの若芽を使った「さわやけ汁」が登場します。野だいこんも浜だいこんも野生化しただいこんのことで、これらの若芽は今でいえば、かいわれだいこんに当たります。また、江戸時代の1849年に関西で発行された料理本「年中番菜録(ねんじゅうばんさいろく)」にも、だいこんの若芽を用いたレシピが紹介されているそうです。 1970頃までは料亭や寿司店などで彩りや添え物に使われる高級食材とされていましたが、その後、量産されるようになり、全国へ広まりました。
かいわれだいこんは現在、衛生的な植物工場で生産されています。農林水産省の令和2年産の地域特産野菜生産状況によると、全国の出荷量4820トンのうち、1位の福岡県が1090トン、2位の大阪府が1070トンで、岐阜県、沖縄県、鹿児島県、大分県と続きます。
かいわれだいこんの栄養学
シャキシャキとした食感と、ピリッとした辛みが魅力のかいわれだいこん。その栄養価を、だいこん本体と比較してみました。100g当たりの栄養価を調べてみると、すぐれた抗酸化力を持ち、体内でビタミンAとなって粘膜や皮膚を健やかに保つのに役立つベータカロテンは、かいわれだいこんが1900μgに対し、だいこん本体は0。抗酸化作用にすぐれ、抵抗力を高める働きでも注目されるビタミンCは、かいわれだいこん47 mgに対し、だいこん本体は12mg。止血のビタミンと呼ばれるビタミンKは、かいわれだいこん200μgに対し、だいこん本体は微量。赤血球の生産を助け、胎児の健やかな生育に欠かせない葉酸は、かいわれだいこん96μgに対し、だいこん本体は34μg。骨の健康に欠かせないカルシウムは、かいわれだいこん54mgに対し、だいこん本体は24mg。腸内環境を整えるのに欠かせない食物繊維は、かいわれだいこん1.9gに対し、だいこん本体は1.4g。なんと、だいこん本体よりも、新芽のかいわれだいこんの方が、すぐれた栄養価であることが分かります。ただし、栄養価でいえば、だいこんの葉の方がさらに優秀!新芽も、根も、葉も、それぞれに美味しく、栄養価にもすぐれただいこんは、実に素晴らしい野菜です。
また、かいわれだいこん特有の辛味は、だいこん本体の辛味と同じイソチオシアネートという成分によるものです。このイソチオシアネートは、すぐれた抗酸化作用や抗菌作用で注目されています。
かいわれだいこんの選び方、保存法のコツ!
店頭で選ぶ際は、葉がみずみずしい緑色が鮮やかで、茎がピンと立っているものが、鮮度のよい目印です。
購入後は、パッケージのまま、立てた状態で冷蔵庫の冷蔵室または野菜室へ。2~3日以内に食べきりましょう。
調理の際は、根元の部分を手で持って逆さにし、水を張ったボウルに葉と茎を浸け、ふり洗いすると、葉や茎の間ある種の皮が取り除けます。
かいわれだいこんは、生のまま料理のトッピングなどに使ったり、サラダやサンドイッチ、スープやみそ汁などにも手軽に使える便利野菜。ピリッとした辛みは、わさびと同様に刺身とも相性バツグン!その愛らしい姿を生かし、刺身で巻いて、カルパッチョ風に仕立ててみました。おもてなしに、もう一品……というときに、ササッと作れてオススメです。
● | かいわれだいこん | 1パック |
● | お好みの白身魚の刺身 | 100g |
● | レモン | 1/4個 |
● | オリーブオイル | 大さじ1 |
● | 塩 | 小さじ1/2 |
● | 粗びきこしょう | 少々 |
- かいわれだいこんは、根元の部分を手で持って逆さにし、水を張ったボウルに葉と茎を浸けてふり洗いし、水気をよく切り、根元を切り落とします。レモンはくし切りにします。
- かいわれだいこんを白身魚の刺身で巻きます。
- ②を皿に並べ、塩と粗びきこしょうとオリーブオイルを混ぜたドレッシングをかけ、添えたレモンを搾ります。