野菜ソムリエの思ひ出の味
ミニトマトが教えてくれたこと

2015年11月25日UP
 小学生の頃によく食べていたのは、ミニトマト農家の両親が育てたミニトマトだ。ビニールハウスの中で頬張ったミニトマトは、甘みと酸味があり自分が美味しいと思う味だった。そしてその味は、ミニトマトとして当たり前の味だと思っていた。

 大人になって就農した際、両親と同じようにミニトマトを育てた。収穫の時期を迎え、初めて自分で育てたミニトマトを食べてみた時のことだ。小学生の頃に食べた味を期待しながら口に含んだのだが、水っぽくて味が薄く全然美味しくなかった。昔から当たり前だと思って食べていた味とは全く異なる味にもの凄くがっかりした。それと同時に、両親がどれだけ一生懸命に考えてミニトマトを育てていたかという事に気がつき、自分の中ではきちんとやっているつもりだったけれど、まだまだだったという事もよくわかった。

 当時の自分は、温度計や水分計、土壌成分の数値や栽培基準ばかりを気にしていた。一方両親は、お客様から美味しいと言われるミニトマトを育てるため、毎年試行錯誤を重ねていた。数値や栽培基準を大事にしながらも、土の湿り具合、花の大きさ、樹の状態など、畑や作物をしっかりと見て管理をしていたり、日差しの強さによって潅水を調節したり、前年の育ち方を見て施肥や定植時期を調整するなど、圃場ごとの状況に合わせて細やかに気を配った育て方をしていたのだ。その努力がミニトマトの味の差にはっきりと表れていたのは明白だった。この時、自分も両親に負けない味を出せるようになりたいと強く思った。それから仕事への意識も変わり、野菜の状態を細かく見て臨機応変に対応しながら栽培をするようになった。そしてまた、こういった農家の努力を多くの方に知ってもらいたいとも思うようになった。

 野菜ソムリエという資格に興味を持ったのは、ミニトマトの他に変わった野菜をいろいろ育てていく中で、自分はもっと野菜のことを知らなければいけないと思ったからだ。ジュニア野菜ソムリエの資格取得後は、ただ育てるだけでなく、自分なりに美味しい食べ方なども考えながら作物を育てるようになった。お客様に聞かれた時には、茹でると美味しい、揚げるとうま味が出るなど、品種によって異なるおすすめの食べ方をアドバイスすることもある。食べてみて美味しいと感じて新しく育てるようになった野菜もあり、今ではミニトマトを中心に多くの種類を育てているが、あの日感じた思いは忘れることなく日々野菜と向き合っている。

西聡さんのプロフィール
長崎県平戸市在住。ジュニア野菜ソムリエ。農業高校、農業大学校を卒業後、就農13年。ミニトマト、タマネギを中心に年間約30種類から40種類を生産し、農協出荷および直販をしている。「平戸の味」が好きな農家である。

取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ