野菜ソムリエの思ひ出の味
祖母の姿と、かりもり(堅瓜)の粕漬け

2016年1月20日UP
 物心ついた頃の夏の記憶。それは「かりもり(堅瓜)の粕漬け」を作る祖母の姿だ。暑いなか軒先で汗を拭き、杯を使ってかりもりの種取りをしていた光景が今も印象に残っている。かりもりの粕漬けは祖母の十八番で、我が家の夏の食卓の定番でもあった。

かりもり(堅瓜)の粕漬け

 縦半割にして杯や10円玉を使って胎座ごと種を削り取ったかりもりに、粗塩をしっかり擦り込んで酒粕に漬け込む。一般的には、塩を擦り込んだ後にいったん天日干しをするようだが、祖母の場合は干さずに、その分たっぷりの酒粕に漬け込んでいた。親戚が酒蔵だったので酒粕が豊富にあったからだろう。夏場には厚さ1cm程のくし形に切ったパリパリの食感が残る漬け上がりのものが、常備菜として食卓に上がっていた。酒粕の香りとパリパリとした歯ごたえのある食感が好きで、毎日のように食べていたと思う。

 「かりもり(堅瓜)」は、愛知県では代表的な漬け物材料だ。長さは20cm、直径は7cmから8cm程の短円筒形。果皮は濃淡のある淡い緑色、果肉はほんのり緑がかった白色でシャキシャキとした食感、食味は淡白。漬け物にしても食感が失われにくく歯ごたえがあるのが特徴だ。早生種もあり4月頃から出回るが、旬は7月。家庭で漬け込みをされる方もまだまだいるため、時期になると直売所やスーパーの店頭に並ぶ。また、浅漬けや粕漬けなどの加工品として地元の食品メーカーからも販売されている。

 さて、我が家のかりもりの粕漬けだが、祖母が他界した後は日々の食卓に上がることは少なくなってしまった。親戚が酒蔵を廃業して酒粕を入手できなくなったからということもある。今は残念ながら市販のものを時折購入して楽しむ程度だ。
 我が家で当たり前に食卓へ上っていたものの多くが地元愛知県の伝統野菜であることを知ったのは、職業として青果の販売に携わるようになった約30年前のことだった。それを機に季節と密接につながりあった食文化を意識するようにもなった。かりもりの他には、縮緬かぼちゃ、十六ささげ、千石豆、もち菜などの伝統野菜がある。当時、同世代にとってすら既に馴染みのない野菜として認識されているものだったが、祖母も母も愛知県西部の尾張地区の農村部出身だったおかげで、同世代よりはおそらく多くの食経験があるように思う。

 野菜ソムリエの資格取得のきっかけは、家族の健康上の理由から家業を畳むことになり、それまでの青果物販売等の経験を形にしたいという思いからだった。また、青果物ブランディングマイスターの資格にも臨んだ。資格取得後は、全国の同僚や生産者と知り合い、販売流通側からだけでは見えない部分が明確になった。現在は、これまでの経験をベースに青果物のコンサルタントとして活動している。

金森昭憲さんのプロフィール
愛知県在住。野菜ソムリエ、青果物ブランディングマイスター。家業の食料品店を手伝ううちに野菜・果物に触れ、庭の片隅で野菜を育て、農業関連のテレビ番組を愛する幼少時代を過ごす。資格取得後は、青果物販売 25 年の経験を基にコンサルタントとして生産者さんの利益向上をサポートしている。
Office FieldWork ホームページ http://field-work758.jp/

取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ