野菜ソムリエの思ひ出の味
柿を好きになるきっかけとなった「次郎柿」

2016年10月26日UP
 生まれ育った愛知県名古屋市の実家では、親戚から毎年シーズンになると富有柿が贈られてきていた。家族は皆、硬い柿よりもスプーンですくえる程に柔らかくなった柿が好きで、全ての柿をそのようにして食べていたが、自分だけは食感や見た目が苦手で徐々に柿を食べなくなっていった。
 大人になってから静岡県浜松市に居を構えた。当時、市内の浜北区で「次郎柿(じろうがき)」が有名なのは知っていたが、相変わらず柿は苦手だったので、特に興味をもつ事はなかった。

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 2007年、運動指導をしていた妻とともに独立し、運動と食を融合したコンセプトのカフェを開くこととなった。妻は運動、自分は食の担当である。カフェで提供する料理や飲み物は、野菜や果物などヘルシー食材をメインに扱いたいと考え、ジュニア野菜ソムリエの資格取得に至った。
 カフェを開業したのち、月に一度朝市を開催するようになった。その仕入れ先との会合の場でたくさんの農家さんをご紹介いただき、その中のひとりに柿農家さんがいた。2013年1月のことだった。未だ柿への苦手意識はあったものの、柿園を見た事がなかったということもあり、その農家さんの農場を訪ねてみることにした。時期外れで生の柿はなく、そこの「次郎柿」をつかった干し柿を食べさせていただくことになった。干し柿は渋柿を干して作るものだと思っていたが、そこの干し柿は甘柿を干したもので、かなり濃厚でありながら後味はさっぱりとしたおいしさがあった。また、四角い「次郎柿」をそのまま干したような形にも驚いたことを記憶している。
 その年の10月、柿の旬を迎えて、その農家さんの生の「次郎柿」を入手した。形は丸ではなくほぼ真四角で色つやがあり、高級果物の雰囲気があった。まだ食べ時ではなかったのでその場では食べず、教えていただいた食べ頃のタイミングを待って食べてみると、程良い硬さで、後味のよいさっぱりした甘さがとても印象的だった。かつて食した干し柿からある程度の味の想像はついていた。それでも生の柿特有の青臭さというか、柿のエグみなどはある程度残っているのだろうと思っていたのだが、いざ口にすると、そういったことを感じることは全くなかった。今まで食べていた柿は、なんだったのだろうかとさえ感じる程だった。

 小さい頃は、硬くても柔らかくても、柿の食感や見た目が苦手だった。しかし柿農家さんと知り合ったことで、それまでの柿の概念がガラッと変わった。苦手な食べ物でも、品種や食べ頃など、いい頃合いで食べればおいしさを感じられることもあると気付くきっかけともなった。
 このような経験もあり、現在自店では食育に力を入れている。地元の野菜ソムリエコミュニティ静岡で開催される食育講座やキッズ野菜ソムリエ育成プロジェクトなどにも積極的に参加し、子どもたちに食への関心や興味をもっと示していきたいと考えている。

小野崎和明さんのプロフィール
静岡県在住。ジュニア野菜ソムリエ。浜松市の「野菜ソムリエのベジカフェ&身体コンディショニングスタジオ チルチェ」オーナー。
ブログ http://ameblo.jp/circe-caffe/

取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ