野菜ソムリエの思ひ出の味
同期を思い浮かべる「インカのめざめ」

2015年9月30日UP
 ジュニア野菜ソムリエの資格は、2004年7月の連休に札幌市で開講された短期集中講座にて取得した。漬物屋を営んでいるご夫婦が夫婦揃ってシニア野菜ソムリエに合格されたという記事を目にし、八百屋を営む自分もこんな資格をとりたいと思ったのがきっかけだった。当時は仕事が忙しく、地元福井県で開催される講座にはなかなかスケジュールを合わせられずにいたが、たまたまその3連休は都合をつけられたため、北海道まで出向くことにした。そして、そこで出会ったのが長船さんだった。

 北海道北見市でカフェを経営されていた長船さんは、ジュニア野菜ソムリエ講座の同期だ。休み時間に名刺交換をした際、福井県の野菜を送ってほしいとのリクエストをもらい、毎年のように野菜を送ることになった。一寸そらまめ、富津金時(さつまいも)、昇竜マイタケ、越のルビー(ミディトマト)など、初夏の北海道には出回らない福井県の多品種の野菜を送ったため、重宝がられたようだった。長船さんからも、玉ねぎ、山わさび、ホタテ、牡蠣など北海道産の食材が届いた。カフェで販売されている焼き菓子やジャムを長船さんに頼んで送ってもらい、ホワイトデーのお返しに利用したこともあった。県を越えてのやりとりが3年目を迎えた頃だっただろうか、急に長船さんと連絡がとれなくなった。

 連絡が途絶える前、当時人気が上がってきた「インカのめざめ」を入手したく、長船さんに同じ市内で農家をしている野間田さんを紹介してもらっていた。その時取り寄せたインカのめざめは、皮ごとオーブンで焼いて手で割り、バターと甘口しょうゆをたらして食べてみた。越冬じゃがいも特有の糖化した甘みとコクがあり、栗のような極上の味わいだったことを覚えている。

 それ以来、野間田さんのインカのめざめは、毎年100kgから150kgは取り寄せて販売している。長船さんが若くして病気で亡くなっていたことは、後日、野間田さんから聞いた。札幌市での講座の後はメールや電話ばかりで、直接お目にかかる機会はなかったけれど、インカのめざめを味わうたびにふと長船さんを思い浮かべる。そして、彼女の分まで野菜ソムリエとして頑張ろうと思うのだった。野間田さんのインカのめざめは11月から2月に入荷する。今年のシーズンももうすぐだ。

松尾正則さんのプロフィール
福井県在住。野菜ソムリエ。福井県福井市にある八百五商店の専務。2010年から3年間コミュニティ福井代表を務める。青果物ブランディングマイスターの資格も持ち、日々、生産者と生活者の橋渡しに奮闘中。第4回野菜ソムリエアワード(野菜ソムリエ部門)銅賞。
株式会社八百五商店ホームページ http://www.yaogo.com/

取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ