野菜ソムリエの思ひ出の味
引っ越し翌日に頂いた「ひょうたんかぼちゃ」

2015年12月22日UP
 昨年の10月から、ほぼ限界集落といわれている広島県竹原市小梨町で地域おこし協力隊として働いている。業務内容は農業振興と産業振興。まだ名の知られていない地域の魅力を再発見して磨くという、大変そうだが面白い仕事がしたいと思っての転職だった。それまで観光協会でイベント企画・運営をしていた自分には、文字通り畑違いの仕事ではあった。

 転職に伴いこの町に引っ越してきた次の日のことである。外出から戻るとピンポンが鳴った。「隣の◯◯じゃが、ええもんじゃないんじゃが、あんたかぼちゃ食べるかいね?」。近所のおじいさんとおばあさんが、かぼちゃを持って訪ねてきてくださったのだ。
 そのかぼちゃは、「ひょうたんかぼちゃ」という種類のかぼちゃで、おじいさんとおばあさんが栽培したものだった。どっしりとした重みがあり、緑色で、端の方が少し黄色っぽい色をしていた。皮は割と固めだが、包丁を入れるとさほど固くなくサクサクと切れた。3分の1ほどをベーコンと玉ねぎも加えて煮込み、スープにして食べてみた。かぼちゃのホクホクとした食感と自然で優しい甘みが口に広がり、普段スーパーで買って食べているかぼちゃよりもおいしく感じた。心機一転でやる気にあふれてはいるけれど、慣れない土地で今後どうなるのか不安もあり、様々な感情が湧き出ては交錯している気持ちをかぼちゃスープのおいしさと温かさがなぐさめてくれたのだった。

 その後、大根、白菜、かぶ、ねぎ、ほうれん草、小松菜、春菊、ごぼうなど、ほぼ毎日のように地域の方々から様々な野菜・果物を頂いてきたが、いずれもやはりおいしいと感じた。「ホタルの里・おなし名水」という名水が湧き出ていて、田舎で車もあまり通らないため空気もおいしい。そんな地域でとれる野菜・果物はいっそうおいしいのだと身に染みた。高齢化率の高い町だが、自分たちの手で作った無農薬の新鮮でおいしい野菜・果物を食べている人たちは、80、90歳を過ぎても元気で若々しい様子を目の当たりにした。
 おいしい食べ物は身体と心を健康にする。私も身体に良いおいしい野菜・果物を作って、大事な人たちの身体と心を元気にしたいと思うようになり、畑で育てられる野菜をはじめ、緑竹、原木しいたけ、キウイなど、この地で様々な野菜・果物の栽培を始めた。

 野菜ソムリエの資格へのチャレンジは、農業振興業務を仕事としていく以上、野菜・果物についてある程度詳しい知識を身に付けなければと思ってのことだった。資格取得後の現在は、小梨町の野菜・果物を材料にしたスイーツ・乾燥野菜等の産品を開発中だ。また、地域の方々と一緒になって、地域外の方を招いての稲刈り体験や、栗や柿などの収穫体験を企画・開催もしている。稲刈り体験の後、新米をカレーライスにして食べてもらうと、「お米が美味しい!」と参加者のみなさんがとても喜んでくださっていた。今後も、小梨町のおいしい米や野菜・果物が多くの人たちの心と体に元気を与えてくれることを夢見て活動している。

酒井望さんのプロフィール
広島県在住。野菜ソムリエ。竹原市小梨町地域おこし協力隊として小梨町の農業振興、産業振興に携わる。地域のおじいさんおばあさんと小梨町を活性化させるべく、日々奮闘中。
竹原市小梨町地域おこし協力隊のfacebookページ https://goo.gl/nKXqyl

取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ