2016年1月6日UP
18歳まで住んでいた愛知県名古屋市の実家では、冬の足音が聞こえ始めると「大根の煮物」がしばしば夕食に登場したものだった。母が作る大根の煮物は、2cm程の厚さの大根をしょうゆベースの薄い味付けで煮てあるだけのものだ。当時は、「大根って、なんで苦い味なんだろう?」と思いながらも残さずに食べていた。「苦いからあまり好きじゃない。」と母に言うと、「大根ってこういうものだから食べなさい。」と済まされることもあり、当時は嫌いな野菜ナンバー1だったように思う。
社会人になって実家を離れ、母の作った大根の煮物を口にする機会は無くなったが、飲み会の席などで大根の料理に出会うことは多くなった。そして、大根はどんな味にも、どんな調理方法にも、自らの主張を残しつつ、染まっていける野菜だと気がついた。冬の寒さにはその旨さの醍醐味を発揮し、食べた後の満足感は言うまでもなく、日常で疲れた心をほっとさせてくれる優しさも持ち合わせる不思議な野菜でもある。母の調理方法に問題はあっただろうが、もう少し早くその美味しさに巡り合っておきたかったとふと思う。嫌いだったはずの大根に、今やすっかり魅了されている。
2013年の秋、仕事で大きな挫折があって将来の目的を失っていた時、ふと書店で手にしたのが「野菜ソムリエ公式ガイドブック」だった。何となくピンときて、「野菜ソムリエ」を60歳からのセカンドステージの第一目標に決めた。ジュニア野菜ソムリエ合格の勢いに乗って、中級の野菜ソムリエ講座も受講。大学の受験勉強のように猛烈にテキストを読み返して勉強し、無事に中級資格も合格に至った。当然の如く、野菜・果物への関心度は高まり、より新鮮で旨そうな食材をチョイスするようになったり、我が家の食事は野菜中心の献立に変化していったりもした。また、この資格を活かして「60代を生き生きと過ごす」という大きな目標も出来た。
現在は、同じ思いを持っている野菜ソムリエの仲間数人で「プティ・ポワンヌ」という名のチームを結成し、プロデューサー的な立場で参加している。「プティ・ポワンヌ」とは、小さなエンドウ豆という意味の「プティ・ポワ」に、女性を意味する「ウンヌ」をプラスした和製フランス語だ。今のメンバー1人1人は、野菜ソムリエとしてはサヤの中で育っているエンドウ豆のように小さな存在であるが、いずれ大きく成長してサヤから飛び出し、社会に羽ばたいていくという意味を込めている。月1回ペースの活動では、宮城県仙台市郊外秋保(あきゅう)温泉近くにある産直野菜を取り扱う物産館「秋保ヴィレッジ アグリエの森」で、旬の野菜をテーマにしたベジフルクッキングや、野菜を使ったゲームなどを実施。生活者の皆さんとの触れ合いを大切にしている。
「昔取った何とか」ではないが、自分の持っているノウハウやスキルを活かし、今後は、宮城県の生産者の皆さんと野菜好きの生活者の皆さんが楽しく集うことが出来るマルシェを立ち上げたいと考えている。残り少ない人生ではあるが、「野菜ソムリエ」としてやりたいことが本当にたくさんあり、これからが楽しみなのである。
塚本譲さんのプロフィール
宮城県在住、アクティブ野菜ソムリエ。1955年生まれ。B型。愛知県名古屋市出身。東京都で大学生活の後、宮城県仙台市の民間放送局へ就職。テレビやラジオの制作現場が長く、その後、営業セクションや編成セクションを経験し現在に至る。2014年12月野菜ソムリエ資格取得。
取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ