2016年2月24日UP
子どもの頃、春休みで父方の祖父母宅へ帰省した時のことだったと思う。夕食には祖母の手料理が大皿でたくさん並び、その中のひとつに「葉ごぼうの炊いたん」があった。料理上手な祖母が作る料理はどれもおいしくて帰省時の楽しみのひとつでもあったが、この料理は特に好きで、食卓に並ぶと「やったー!」と心のなかで思うほどだった。
葉ごぼうは、根の部分が小さく、ふきのような茎に大きな葉っぱがついていて、とにかく長いのが特徴だ。祖母が作る「葉ごぼうの炊いたん」は、斜め薄切りにした根と、4cmから5cmにざく切りした茎を、油揚げと一緒に炊いたもの。干ししいたけや鰹節などで取っただしに、酒、しょうゆ、みりん、砂糖を足した、ほんの少しだけ甘く優しい味付けだ。祖母特製のだしが効いた味わいは、もっと食べたいという気持ちを沸き上がらせた。今思えば、私の住む兵庫県神戸市には葉ごぼうが売られておらず、香川県高松市の祖父母宅に行かないと食べられないという特別感も多少はあったかもしれない。
元々野菜が大好きだという思いはあり、家事と子育ての悶々とした毎日に疲れ「自分の好きなことをしたい!」という気持ちが爆発したことから、野菜ソムリエの資格取得へと至った。そしてある日、資格取得を通して出来た友人に、珍しいかなと思い、祖父母宅へ帰省した際に持ち帰った葉ごぼうの写真を送ってみた。すると「それは八尾では若ごぼうと呼んでいて、子どもの頃から食べている」との返答があった。彼女は大阪府八尾市出身だ。てっきり香川県の特産だと子どもの頃から思っていたので、それは私にとって衝撃的な出来事だった。
地域が違えば呼び方が異なることがある。しかし食べ方は同じであるから不思議だ。そして、このような野菜は他にももっとたくさんあるだろうなと思った。以来、旅先では必ずその地の特産野菜を探して買い、食べ、調べるという楽しみが増えた。また、一般的な野菜だけでなく、その土地固有の在来種にもとても興味を持つようになり、野菜ソムリエとしての視野が広がったようにも思う。
長らく、私にとって葉ごぼうの料理と言えば、油揚げと炊いたものだったが、八尾の友人が主催する若ごぼうの収穫会のために考案した「塩きんぴら」はなかなかの出来映えだったと思う。葉ごぼうをごま油で鷹の爪とともに炒め、だし、酒、みりん、塩で味付けし、仕上げにごまをふったレシピだ。
かつては、新しい世界に飛び込むのも、人前で話をすることも、友達を作ることも苦手だった。野菜ソムリエの資格を取得し自分に自信を持てるようになった今では、すべてが楽しいと感じている。
井上かおりさんのプロフィール
兵庫県在住。野菜ソムリエ。子育て中の専業主婦。何でもよく食べて健康な我が子を見て、野菜を含め「食べること」は生きていく上でとても重要だと痛感。地域で獲れた野菜を使った料理教室「地産地消で親子料理教室」を不定期で開催している。子供の成長と共にもっと活躍の場を広げていければと思っている。
取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ