2016年3月9日UP
野菜ソムリエになったばかりの3年前のことである。ご縁をいただいて繋がった、香川県東かがわ市のこんちゃん農園へ、週に一度は遊びに行くようになっていた。
1月のある日、いつものように農園を訪ねると「さぬきのめざめの春芽、食べたことある?」と聞かれた。ビニールハウスの中では、土からニョキっとアスパラガスが顔を出していた。それをその場でポキッと収穫し、私に手渡してくださった。茎からは水が溢れている。一口食べると甘い! 筋っぽさも、えぐみや苦味もなく、シャクシャクとした歯切れだった。今まで思っていたアスパラガスのイメージを覆す、驚きと感動だった。美味しさに感動していると、「食べている人のそういう笑顔や喜びを見たら、こっちも嬉しくなる。もっと美味しいものを作ろうって気持ちになる、やる気が出る。」と言われ、余計に嬉しくなったことを記憶している。
「さぬきのめざめ」は、平成8年から香川県農業試験場で品種の開発をスタートし、平成17年に品種登録された、香川県オリジナルのアスパラガスだ。1月中旬から10月末まで長期に渡り収穫が出来、穂先が開きにくいので、春先には長いもので50㎝になるものも出回る。根元まで柔らかく、じっくり弱火でソテーすると、甘みが出てジューシーなのが特徴だ。
こんちゃん農園では、「良いアスパラガスができるまで3年の歳月をかけ、色々な失敗もしたんだよね。」とも聞いた。美味しいものを食べて欲しいと、こうやって努力や工夫を重ねて苦労をしていることは、流通の過程を経ると、食べる側まではなかなか伝わらないのが現状だ。この日の出来事から、生産者の想いを生活者にもっと伝えたいと強く思うようになった。また、食べた人の自然に出る笑顔と「美味しい!」の言葉は、生産者にとって嬉しいことなのだとも実感した。食と農はもう少し近くにあるべきだ。私たちの食を支えている生産者を守るのは自分たちだという意識を持って食べてもらえるよう生活者へ伝えたい。それが、自分の役目だと思う。
飲食店に勤務しているにもかかわらず、野菜のことを知らな過ぎたため、仕事へ活かすために野菜ソムリエ講座を受講した。資格取得後は、生産者との関わりができて、今まで当たり前だと思っていた食べることの尊さ、農業の大切さや大変さを知った。そして、この素晴らしい野菜たちをもっともっとたくさんの人に知ってもらいたい、食べてもらいたい、そして作り手の声をもっと知ってもらいたいと、自ら行動できるようになったのが大きな変化だ。私に野菜ソムリエというアイデンティティをくださったことに感謝している。
須賀ひとみさんのプロフィール
香川県在住。アクティブ野菜ソムリエ。「食」と「農」を繋げるをテーマに 地元香川 讃岐を色々なショク(食、触、職、色、植、shock(驚き))を通じてもっと知ろう、楽しもうと「地讃知shok」(ちさんちしょく)を立ち上げ生産者と食べる人を繋げる様々なイベントを開催。繋げたい想いが高じて「八百屋ひとみ」も展開中。香川の食材に拘り提供している「瀬戸内鮮魚料理店」に勤務。
ブログ http://ameblo.jp/chisanchishok/
取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ