2016年4月20日UP
食卓にいつもあり食べ続けているもの、それは自家製の「高菜漬け」である。高菜漬けは家々で少しずつ味が違う。我が家の高菜漬けは、しっかりと重しが効きシャキっとした歯ごたえと、唐辛子の程よいピリ辛具合、口にした時に独特な漬物臭さがないのが特徴だ。私が幼い頃は祖母が漬け、そして母へと受け継がれてきた。添加物が無く、安心して食べられる、長年慣れ親しんだ実家の味だ。
祖母や母が作る高菜漬けは、自分で栽培した高菜を使う。収穫した高菜は天気の良い日に干すのだが、しっかりと干さなければならないため、中まで日が当たるように葉っぱの部分を開いたり、ひっくり返したりする。思いのほか重たく、大変な作業だ。漬物樽に仕込んでしばらくすると上に水分が溜まってくる。これを頻繁に綺麗に拭きあげてあげないとカビが出たり、臭くなったりするため、梅雨明けまでは非常に気を遣う。保存料などを入れないので、しっかり重しが効いているか、常に気にしていなければならないのだ。こうして手間と愛情をかけて作られた高菜漬けは、私にとって欠かす事の出来ない存在なのである。
結婚後、転勤族となった。赴任先は9回変わったが、行く先々へも母から高菜漬けを送ってもらっていた。今や、高菜漬けは子どもたちにとっても大好きな一品だ。定番の食べ方は、高菜漬けをみじん切りにして、ゴマ油でかつお節・ゴマと一緒に炒めて、酒・みりん・しょうゆで味付けをする「高菜炒め」である。まずは包丁を研ぐところから始めて、細かく刻むのがこだわりだ。時には、この高菜炒めを近所へお裾分けすることもあり、どの赴任先でも「スーパーで売っているものよりも、漬物臭さがなく、ピリ辛でおいしい!」と好評を得ていたものである。ごはんにのせて食べるだけでなく、混ぜて高菜ライスにしたり、卵焼きの具にしたり、応用の幅は広い。なかでも、高菜炒めをマヨネーズで和えておにぎりの具にする食べ方は、我が家の一番人気である。
転勤によって長く故郷の九州を離れていたが、2年前に戻ることとなった。自然豊かな田舎に帰ることと、子育てで食の大切さを感じていたことなどから、帰ったら食の仕事をしたいと思うようになった。それが、野菜ソムリエとなるきっかけだった。資格取得後は、いろいろな方と出会い、様々に刺激を貰えたことから日々が充実している。環境に恵まれ、野菜・果物が豊富なこの地で、食を通してまわりの方々の人生も豊かに出来たらと思う。
私たち夫婦は母の住む九州へと戻ってきたが、子どもたちはそれぞれに家庭をつくり関東で暮らしている。私が母にそうしてもらったように、今では私が子どもたちに高菜漬けを送っている。すぐに食べられるよう高菜炒めにして小分けにした状態で送っているのだが、義父母や友人にもお裾分けしているらしく、皆からも評判が良いようである。昨年からは、だんだんと年老いていく実家の母に少しずつ習いながら、自分でも高菜漬け作りを始めた。いずれは高菜の栽培にもチャレンジしたい。実家の高菜漬けの味をこれからもずっと皆で食べられるよう、今度は私が受け継ぐ番なのである。
森田由美子さんのプロフィール
福岡県在住。アクティブ野菜ソムリエ、ジュニア食育マイスター、メンタルフードマイスター2級。その時期に採れる食べ物は、その時期の体に一番良い。旬の食べ物は、体も心も健康にしてくれる。「旬産旬消」をモットーに、さまざまな年齢層の方への食育、野菜・果物の楽しみ方講座、簡単に作れるレシピ提案、販促活動、地元の食研究などで活動中。
取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ