野菜ソムリエの思ひ出の味
母が作ってくれた玉ねぎファルシーのスープ煮

2016年5月11日UP
 私が小学生の頃、実家では玉ねぎを栽培し出荷していた。玉ねぎの栽培は植え付けから出荷まで多くの作業がある。幼い頃からずっと手伝ってきたのだが、特に収穫期は大変だ。学校から帰ると、21時頃まで玉ねぎを吊るすというとてもきつい作業が待っているのだ。おかげで、玉ねぎを見るのも嫌になるほどだった。
 収穫期が終わり、農作業が一段落した6月のある日のことだった。学校から帰ると、いつものように母の手料理が食卓に並んでいた。いつもと違うのは、初めてみる料理「玉ねぎファルシーのスープ煮」が並んでいたことだ。その日は土砂降りだった。大雨のなか帰宅してホッとした気分に加えて、よりあったかい気持ちになった。ファルシーは、今では一般的な料理だが、40年も前の当時では、あまりに斬新で感動さえしたことを覚えている。

玉ねぎファルシーのスープ煮

 その料理は、JAの料理講習会で習ってきたようだった。大玉の玉ねぎがシチュー皿にどーんと1個盛りつけられていて、見た目の強烈な印象と共に食べ方に戸惑っていると、スプーンで崩しながら食べるのだと母が教えてくれた。玉ねぎの中には、ひき肉、ミックスベジタブル、くりぬいた部分の玉ねぎのみじん切りでつくった肉団子状態のものが入っている。コンソメスープで煮た玉ねぎは柔らかで甘く、肉団子は大好きだったので美味しかったのは言うまでもない。普段、玉ねぎをひとり1個食べるということはなかなか無いが、これだったら1個ぺろりと食べられるのでスゴイ料理だと母が自慢げに話してくれ、大いに盛り上がった。そして、忙しいなか家族のために用意してくれた母の愛情たっぷりの玉ねぎ料理が、癒しや喜びにつながることを心の底から感じた。つらく大変な作業によって嫌いになりかけた玉ねぎへの思いが変わった瞬間でもあった。

 歳を重ねるごとに地元の佐賀県鹿島市への郷土愛が増し、地域に何か貢献できないかなという思いが強くなった。また、産地直売店が増えて地元産品をよく把握できるようになったものの、それを知らない方が多くいらっしゃるためお伝えしないともったいないという思いが合わさって、野菜ソムリエの資格取得に至った。「何もなか佐賀県」「何もなか鹿島市」と地元の方ですら口にされるが、決してそんなことはない。この地は、生きていく上で一番大切な食べ物にう~んと恵まれているのである。それを誇りにして地域が元気になればと願う。資格取得後は、鹿島市が主催する「鹿島の旬野菜講座と簡単料理」という講座や、道の駅の情報誌のコラムなどで「いやいや、これもある!あれもある!」とふるさと自慢の野菜・果物の魅力を伝えており、「鹿島市は本当に恵まれていることを今になりやっと分かった。」等々嬉しい反響も増えてきている。生活者の方が地元産品を喜んで食べてくれれば、農家の方も張り合いが出るだろうし、地域が丸くつながって気持ちも豊かに、そして皆のからだも健康にと、いい循環が生まれてくるように思う。今後も引き続き地域の方と関わりを持ち、地元活性化に貢献するような活動を続けていくつもりである。

松尾久美子さんのプロフィール
佐賀県在住。野菜ソムリエ。永年、保育士をしていたが、退職後野菜ソムリエの資格を取得。野菜・果物を通して地域活性化を願い、地域に根ざした活動を中心に、料理教室や地元の道の駅の情報誌にコラム連載したりしている。

取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ