栃木県南部の伝統野菜「かき菜」
2016年5月25日UP
3月になると、我が家では毎日のように「かき菜」のお浸しが登場する。かき菜は栃木県佐野市や足利市の伝統野菜で、芯葉をポキッとかきとって食べることがその名の由来だと言われている。母はお浸しが好きで、ほうれん草・小松菜・菜の花など他のお浸しもよく食卓に並んでいたが、食が細く好き嫌いがあった幼い頃の私は、あまり箸をつけることがなかった。しかし、おばあちゃん家の「かき菜」だけは違った。他の青菜のようなクセはなく、歯ごたえがあって茎が甘い。かき菜とわかると喜んで食べていた記憶がある。お浸しを食べられるようになったのは、かき菜のおかげと言っても過言ではないだろう。そのかき菜は、栃木県に住む祖父母の家の畑で育てられたものだ。大好きな祖父母が育てた野菜だということも美味しさを感じさせる後押しになったのかもしれない。
また、3月は私の誕生月でもある。子どもの頃はより特別に感じる誕生月に集中して食べた記憶、小食の私がもりもりと食べたことで家族から褒められた記憶も重なり、かき菜は美味しいだけでなく、嬉しい記憶も詰まっている野菜なのだ。
結婚後、近所で畑を借りて野菜栽培をするようになったのがきっかけとなり、野菜ソムリエの資格を取得した。採れたて野菜の美味しさに感動し、息子たちも苦手だった野菜を美味しいと感じてくれたことから、もっと野菜の勉強をしたいと思ったのだった。
かき菜は、自分の畑でも毎年育ててまわりの方に紹介している。3月から4月は、冬野菜を終えて夏野菜の準備で畑を耕す時期のため、狭い家庭菜園では収穫して食べる野菜がなくなる。この時期にどんどん芯葉が出て大量に収穫できるかき菜はとても喜ばれる存在だ。
野菜ソムリエとしてどのように野菜の魅力を伝えればいいのか悩んでいたのだが、畑仲間にかき菜を紹介して喜んでもらえたことで、難しく考えすぎていたことに気がついた。シンプルに身近な人たちに伝えていくことからはじめよう! と、野菜ソムリエとしての活動のスタートに立つきっかけを作ってくれたのも「かき菜」だった。
現在は、親子向けにイベントを企画開催し野菜の魅力を伝えているが、将来は学校や幼稚園などへ出向く出張食育講師になって、野菜に興味がない子どもたちにも野菜の魅力や食べることの大切さを伝えていきたいと思っている。そして、おばあちゃんになった時、大人に成長したそれまで出会った子どもたちが自分の畑に来てくれたらいいなぁ、そこまで畑を続けていけたらいいなぁと思っている。それが、50歳を超えた今の私の夢だ。
増田純代さんのプロフィール
東京都在住。野菜ソムリエ、江戸東京野菜コンシェルジュ。種まき、収穫、食べる、一連の体験を通して野菜の魅力を伝え、農家さんの仕事を身近に感じてほしいという思いから、親子農園イベントを主に企画・開催。小学校・中学校の食育授業のアシスタントや子ども向け野菜教室を経験。キッズ向け食育講師を目指して活動中。
ブログ【こんぺいとうのやさい畑】http://ameblo.jp/citrus-0803/
取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ