野菜ソムリエの思ひ出の味
おじいちゃんが育てた「ほうれん草」

2016年11月22日UP
 奈良県に住んでいた祖父は材木屋を営みながら、家族のために米や野菜の栽培もしていた。我が家にも送ってくれていて、私は物心つく前から祖父の野菜を口にすることが多かった。

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 小学生の頃、祖父が送ってくれたほうれん草を母がおひたしにして食卓へ出してくれた。それを食べた時、「おじいちゃんのほうれん草はこんなにおいしいのに、なんでスーパーで買ったほうれん草はあんまりおいしくないの?」と思わず母に質問した。人生で初めて、同じ野菜でも味が違うことを認識した瞬間だった。
 スーパーで買ったほうれん草のおひたしは、ほうれん草臭さはあるけれど味気なく、根元にも甘さがないように感じていた。一方、祖父のほうれん草は、根元のピンク色の部分がとっても甘くておいしかった。その味が気に入り、根元ばかり食べていたように記憶している。
 母は私の質問に対して、「おじいちゃんの作る野菜だからおいしいんだよー。」と答えてくれた。そういえば母はいつも「おじいちゃんの作るものだから、安心して食べられる。」とも言っていた。祖父は農薬などを極力使わず、野菜本来の力を引き出して育てていたようだった。

 子どもながらに食へのこだわりに目覚めた私は、「ほうれん草はおじいちゃんのところからもらったものしか食べたくない。」と言い、そして私が「ほうれん草おいしい!」と言っていたと聞いた祖父は、孫のために採れる度に送ってくれるようになった。
 大人になった今、野菜を購入する際は、食べてみておいしかったら産地とシーズンを覚えておき、次もまたこの時期に出回るこの産地のものを選ぶといったことをしている。これは、この時の経験がベースになっていると思う。

 祖父が育てて送ってくれた野菜たちがおいしかったおかげで野菜が好きになり、同じ食べるならよりおいしいものを食べたいし、野菜の目利きができるようになりたいと思ったのが野菜ソムリエの資格取得のきっかけだった。
 ジュニア野菜ソムリエ講座の「ベジフルサイエンス」の授業を受けて、野菜・果物の持つ栄養素とその期待される効果について知り、ただおいしく食べるだけではなく、体にもよりよくおいしく食べるためにはどうしたらいいかを調理の際に考え、学びを深めるようにもなった。夫がアトピーということもあり、何か少しでも役立てることはないかと思ったからでもある。

 さて、ほうれん草にはごはんにもおやつにも使えるという魅力がある。我が家の子どもたちは葉もの野菜が苦手で、ほうれん草はただのおひたしでは食べてくれないが、おひたしを細かく刻んで少ししょうゆをたらし、しらすと一緒にごはんに混ぜておにぎりにするとよく食べてくれる。また、ペースト状にしてクレープにすると、何度もおかわりしてくれてあっという間になくなるほどだ。こういった経験もいかし、今後は、子どもやそのママに向けて、野菜の持つ魅力や手軽においしく楽しめるレシピを開発し、広めていきたいと考えている。

ふじかわなおこさんのプロフィール
大阪府在住。野菜ソムリエ、ジュニア食育マイスター。「家族が笑顔になるごはんとおやつ」をテーマにオリジナルレシピを開発し、ブログやクックパッドで発信中。現在、1歳児と2歳児の育児真っただ中ということもあり、自宅にてママ友向けの離乳食・幼児食講座や公民館の子育てサロンでママと子ども向けの野菜講座も開催している。
ブログ/野菜ソムリエなおのにこにこごはん http://ameblo.jp/niconicogohan/

取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ