2017年2月22日UP
思い出の野菜と聞かれて思い浮かぶのは「兵庫県丹波篠山産の枝つきの黒枝豆」である。今から25年程前の10月初旬だったろうか。まだ出会って間もなかった彼(現夫)の両親からお土産でもらったものだった。彼の両親は、おいしいものは可能なら旬に産地まで足を運んで買うことが多く、この黒枝豆も季節になると毎年篠山へ買いに行っているのだという。枝の端々に採りたての空気をまとっていた黒枝豆は、私にとって様々な意味で感動を覚えるものだった。
帰宅してすぐ、枝から房を外して両端をカットし、多めの塩をふりかけ、うぶ毛をこすり落とすように揉み込んでからゆでてみた。実家の家族と一緒に食べたのだが、その黒枝豆は今まで食べたどの枝豆よりも味が濃くおいしかった。
実家ではお正月準備のために、年末になるとストーブの上にお鍋をかけてコトコトと黒豆を炊いていた。子供ながらに黒豆がつやつやと煮上がるのが楽しみで、ふっくら炊き上がった黒豆が大好物だった。我が家の黒豆煮は、調味料を合わせて差し水をしながらひたすら炊く簡単なレシピで、いつしか私の仕事となっていた。
そんな身近な黒豆がじつは黒枝豆を乾燥させたものであることを、その時に初めて知り、驚きと共に感動した。考えてみれば、その共通する、粒の大きさ、コクのある甘みと旨みに合点がいき、納得したのだった。そして、この驚愕の事実を世の中の人は知っているのか? とも思い、翌日職場の同僚たちに得意げに話したことも記憶している。
思えばその頃から、直売所などの地場産の野菜を好んで買いに行くようになった。そして、その中で知った新しい発見や感動を身近な人に伝えて一緒に楽しめたら! と考えるようにもなった気がする。
結婚後、夫の転勤で三重県に移り住み、水、米、野菜のおいしさに大満足して暮らしていた。けれど、当たり前過ぎてその有り難さに気づかずにいる人がまわりに多くいることを感じた。私は大阪の街なかで育ったからこそ、三重県の食の環境の素晴らしさを実感できるのだと思う。そして、「こんなに素晴らしい地元野菜があるのに、何とかしたい! 地元野菜の良さ、旬野菜の持つパワー、使い方を伝えたい。そのために知識を増やしたい。」と思ったことが野菜ソムリエとなるきっかけだった。講座受講によって知識は格段に増え、資格取得後は“野菜ソムリエ”というブランドに説得力があることも実感した。
現在の主な活動は、近隣の親子を対象にした食育体験の、野菜の種まきからから間引き、収穫、調理という流れの調理パートを担当。親しみやすく、昔からの調理法なども意識して取り入れ、親子で手軽に野菜料理を楽しんでもらえるように提案している。また、直売所に野菜を出してくれる農家さんと出来るだけ多く話して、その情報をお客様に伝え、それぞれの野菜に興味を持ってもらえるよう、農家さんとお客様との橋渡しもしている。農家さんにとっては買ってもらうことが来年の活力になり、お客様にとってはストーリーを知ることが野菜に親しみを感じて多くの野菜を食べることにつながり、心も体も健やかになると信じているからだ。
今後は食を通して、日本の伝統を知り、次の世代に伝えていく、ということにも取り組んでいきたいと考えている。
なかい ゆうこさんのプロフィール
三重県在住。野菜ソムリエプロ。できる限り地元の食材を使い、素材の持ち味を活かした野菜中心の料理が得意。直売所併設の農業公園スタッフとして、試食やレシピ提案。日替りシェフキッチンでシェフとしても活動。野菜ソムリエコミュニティみえでは会計担当。大阪生まれ大阪育ち。夫の転勤で三重県に移り14年。
取材 / 文:野菜ソムリエプロ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ