私の実家は専業農家である。夏にはきゅうりを、秋から春にかけては菊、ストック、スターチスなどの花を出荷していた。また春先には種苗店へ苗の出荷もしており、きゅうり、トマト、なす、メロンなど、夏野菜の苗の栽培も行っていた。子どもの頃は、春休みになると苗用のポットに土を入れる作業を手伝うのが毎日のことだった。高校生になると、きゅうりの接ぎ木の手伝いや出荷時の箱詰め作業までも手伝うようになっていた。
接ぎ木は活着率を上げるために丁寧で確実な作業を心得た。細かい作業が好きなので大変ながらも楽しかった思い出がある。箱詰めではきゅうりの鮮度を落とさないよう丁寧に扱い、1本1本の長さや太さが違うきゅうりの等級を揃え、おいしそうに見えるよう気をつけて作業した。こうして自分が手伝うことで、父の作業負担が軽減されることに喜びを感じていた。
夏が近づいて暑さが増してくると、我が家の食卓には毎日きゅうりが登場した。もちろん、両親がハウスで育てたきゅうりである。子どもの頃は、採ってきたばかりの新鮮なきゅうりを輪切りにしてマヨネーズをかけて食べるのが定番だった。みずみずしくシャキシャキとした歯ごたえは、今年もまた夏が来た~!と感じさせてくれ、暑い日の疲れを癒しパワーをたくさん与えてくれた。
細切りにしたきゅうりを冷やしそうめんの上にたっぷりと載せるのも我が家の夏の定番だった。自家用に育てていたなすと合わせて漬けた、きゅうりとなすの浅漬けも日々の食卓を賑やかにしてくれていた。両親ともに農作業で年中忙しくしていたので、手の込んだ料理はあまり出てこなかったが、採りたて新鮮なきゅうりのシャキシャキとした食感とうま味は今も忘れられない思い出の味である。
きゅうりのいいところは、他の素材を引き立てるのが上手なところだ。魚釣りが好きな私は、細切りにしたきゅうりを魚の刺身とともに、カルパッチョや中華風のマリネにするのが大好きである。特に金目鯛やアコウ鯛などの赤い皮の魚は、きゅうりの緑との色のコントラストが美しく、見た目を華やかにして食欲をそそらせてくれる。サッパリしたきゅうりの味は、魚のうま味たっぷりの脂との相性もよくおいしさが倍増するのだ。
さて、野菜ソムリエには自分や家族の健康のためになったのだが、資格取得を通して野菜や果物一つ一つにストーリーがあることをあらためて認識することが出来た。
子どもの頃から間近で父や母が愛情込めてきゅうりを育てている姿を見ているため、生活者の手に野菜が届くまで多くの手間がかかっていることは痛感している。私たちが食べている野菜は生産者さんがいないと食べることができない。私たちの体は食べたものでできている。だからこそ、私たちが健康で美しくいられる源となる野菜をつくる生産者さんを心から尊敬している。今では、野菜・果物としっかり向き合い、セミナーでは私自身のストーリーとともに野菜や果物の魅力を伝えるようにしている。
タナカトウコ
/取材・文
野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
ホームページ http://urahara-geidai.net/prof/tanaka/
インスタグラム toko_tanaka