親戚の集まりで出されたちらし寿司に、彩りとしてピーマンの千切りが使われていた。確か小学一年生くらいのことである。それまでピーマンを食べたことが無かった私は、緑色のそれをピーマンとは知らずに口にしたわけだが、なぜこんなに苦いのか、なぜちらし寿司に入っているのか疑問に思いながらも食べることが出来た。苦い野菜を口にしたのは生まれて初めてだった。いったい何を食べたのだろうかとビックリして「これは何?」と聞いたことを記憶している。
子どもの頃に食べたものがきっかけになって好き嫌いがはっきりしてしまうことがある。だが、他人の家でごちそうになるなど日常とは異なる環境で食事することで、苦手そうなものも意外とすんなり食べられてしまうこともある。また、他の家で出される食事には、自分の家では出ない食材が使われていたりして、新鮮な驚きや感動があったりすると思う。
幼かった私が初めての苦い味にビックリしながらもピーマンを残さず食べられたのは、そういう背景もあったからかもしれない。後にも先にもピーマンをちらし寿司で食べることは無いが、あの日以来、私がピーマン好きになったことだけは間違いない。
時が過ぎ、自分も子育てをする立場となった。ある日、友達の家で親子どんぶりをごちそうになる機会があった。どんぶりの中には我が家では入れることの無かったニンジンが入っていた。野菜嫌いの長男が食べられるだろうかと目を向けると、嬉しそうに食べている長男の姿がそこにあった。その日から、長男はニンジンが食べられるようになったのだった。
話はピーマンに戻るが、その魅力は鮮やかな色と苦み、パリパリした食感だろう。油との相性がいいので、細く切って牛肉やたけのこと炒めた青椒肉絲で食べるのが私は大好きだ。中が空洞の形状をいかし、縦半分に切って器に見立て野菜と魚肉を混ぜて詰めてチーズをのせて焼くのも簡単でおすすめの食べ方である。
10年くらい前、和歌山の青梅の消費宣伝の仕事中に野菜ソムリエの資格を持った市場の人に出会ったことがきっかけで、自分も野菜ソムリエの資格取得を目指すことにした。梅以外の野菜果物のことは詳しくなかったので、学ぼうと思ったことからだった。
資格取得後は、和歌山NHKテレビで旬の食材を紹介するコーナーに出演するようになった。料理教室も毎月各所で開催し、新聞、雑誌のコラムなど執筆活動もしている。上級資格取得へと進んだのは、まわりから勧められたということもあるが、上級プロの中の梅に詳しい存在になろうと思ったからでもある。資格取得後には梅の加工販売の会社を設立した。今後はこの事業をさらに発展させると共に、現在取り組んでいる梅と家庭料理の普及活動を海外へもひろげていきたいと考えている。
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タナカトウコ
/取材・文
野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
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