野菜ソムリエの思ひ出の味
給食で食べたサトイモ

 子どもの頃から好き嫌いはほとんどなかったが、唯一苦手なのがサトイモだった。サトイモについては、今も忘れられない思い出がある。
 小学3年か4年の頃だったろうか、学校給食にサトイモが出された日があった。どんな調理法だったかは記憶が曖昧だが、蒸してあったか、甘く煮てあったかだったような気がする。どうしても食べたくなかったのだが、先生から「食べましょう!!」と言われ、嫌々時間をかけて食べたことを覚えている。そして翌日、私は熱を出して学校を休んでしまった。サトイモを食べたことが原因かどうかはわからないけれど、当時は子ども心にサトイモのせいだと思い込んでいた。
 あのヌルっとした食感と表面に照りがある状態を目にするとどうしても食べたいと思えない。さらに、子どもの頃に無理に食べて熱を出した記憶もよみがえってくる。ちょっとしたトラウマ状態である。以後、25歳のとある日までサトイモに箸をつけることは決してなかった。

 運命の日は突然にやってきた。それは結納の日の出来事だった。両家初顔合わせの場でもあり、少し緊張しながら和食のコース料理をいただいていた時である。順に出てくる手のこんだお料理の一品に、なんとサトイモの煮物が出てきたのだ。一瞬ギョっとしたが、上品な器に入れられたサトイモは六方むきにカットされていて、表面にテカリもない。今まで見てきたものとはやや趣が異なる高級感あふれるサトイモだった。
 恐る恐る一口だけ食べてみた。苦手だったヌルヌルねばねばとした食感はなく、ほっこりとしたなかにスッとした歯ごたえ、また甘みを感じた。初めて私好みのサトイモと巡り合うことが出来た瞬間だった。そこから私の中の好きな野菜にサトイモが加わったのは言うまでもない。
 「このサトイモ、ヌルヌルしていない!」と驚いていると、先方の両親や親戚が塩洗いをすればヌルっと感がでないことを教えてくれた。結婚後、自分でもサトイモの煮物をつくるようになった。当初は必ず塩洗いをしてぬめりをとっていたが、食べ慣れてくるとなんとなく面倒になり、次第にぬめり取りをせずに調理するようになっていった。不思議なことに、今ではヌルヌルがあったほうがむしろおいしく感じている。

 サトイモは、他の根菜と一緒に煮込んだり、きぬかつぎのように蒸したり、それをマッシュしてサラダにしたり、豚汁に入れたり、カレー味やトマト味など、様々な調理法や味付けに合う野菜だと思う。インド料理のようにココナッツミルクと一緒に煮込んでカレー風味にすれば、少しトロっとしたスープとしても楽しむことが出来る。そして、サトイモは私の大好きな野菜のひとつへと昇格していった。

 地元のシルバー人材センターで事務をしていた時、家庭菜園をしていた会員さんから旬の野菜をたくさんいただくことがあった。食べ方や保存の仕方、育て方を聞いているうちに、自分でももっと野菜のことを知りたくなった。時を同じくして、一生続けられる仕事がしたい、学生時代に家政科で学んだ食の知識をいかしたいとも考えていた。そんな時に知ったのが、野菜ソムリエという資格だった。
 資格取得後は、毎月深谷と鴻巣カルチャーにて料理教室(Home cooking)を主宰し、小学校や幼稚園にて食育授業・大人のための食育講座を開講。日本野菜ソムリエ協会にて開催している「野菜の研究室 美味しいを追求しよう!One Vege Project」のメンバーでもある。2017年5月からは埼玉地域校を開校している。今後も野菜についての知識を深め、料理教室やレシピ開発など食に関わる情報を多くの方に伝えていきたいと思う。日々健康に繋がるよう、栄養面や食べ合わせなども考慮し、食の整え方をお伝えできる活動につなげていきたいとも考えている。

福島 玲子さんのプロフィール
埼玉県在住。野菜ソムリエプロ。料理教室を軸に活動を重ね、アスリートマイスター2級の知識とともに野菜や果物から健康な日々を過ごすことの大切さを伝えている。子どもたちへの食育授業、畑にて野菜栽培、さいたま地域校主宰。
ブログ 簡単おうちごはん https://ameblo.jp/ryufrei/
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タナカトウコ

/取材・文

野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
ホームページ http://urahara-geidai.net/prof/tanaka/
インスタグラム toko_tanaka