鳥取西部農業協同組合日南支所主催のイベント「ベジタブル・フルーツカッティング教室」及び、日野郡学校給食会研修会「ベジタブル・フルーツカッティング教室~地元の野菜をよりおいしく、美しく!~」に、野菜と果物のカッティングの講師としてお招きいただいたのは、昨年の夏のことだった。
カッティングのメイン食材は、地元の特産である「あまぴー」というカラーピーマン。研修会の前日に、あまぴーの圃場見学をさせてもらうことになった。その場所は標高約450m。山々に囲まれ、たくさんのヒメボタルとゲンジボタルが生息する希少なホタルスポットがある森の近くだった。静かで美しい自然豊かな環境と冷涼な気候が生む寒暖差の中で、たっぷりの愛情を受けながら、あまぴーは育まれていた。生産者さんから、甘くおいしく育てるための工夫や苦労、熱き思いを直接お聞きして、あらためて感謝の気持ちを強く持った。
研修会とイベントでは、あまぴーを半割りにしてカップ状にし、切り口の部分をV字のギザギザにカッティングするレッスンを行なった。あまぴーはその名の通り、甘くて食べやすいピーマンである。生のままでも十分においしいが、火を通すとさらに甘みが増す。
花落ち側(下半分)のカップには、にんじん、アスパラガス、小松菜をカットして飾り、そのまま生で味わってもらった。ヘタ側(上半分)のカップはグラタンの器として使い、オーブンで焼いて加熱による味の違いも楽しんでもらった。グラタンの具はあまぴーの他に、日南トマト、アスパラガス、ツナ、チーズなど。赤、黄、緑と色鮮やかで目にもおいしいグラタンに仕上がり好評を博した。
後日、「日頃見慣れた食材が、切り方や盛りつけ方ひとつで印象が変わることに驚き、感動を覚えました」「日頃の食育に生かして行きたいと思います」「家でも早速カッティングして盛りつけ、子どもに見せたら、『今日のごはんはスペシャルだね~!』と目を輝かせていました。こんな感動を子ども達に与えられるよう、日頃の盛りつけや切り方に工夫をしていけたらと感じました」といった感想の数々をいただいた。食に関わるお仕事をされている方々、生産者さん、子供たちなど、普段からあまぴーを食べている地元の方々が、カッティングの工夫によっていつもとは違う表情のあまぴーを楽しんでくださったことがとても嬉しかった。
じつは現地で焼いたあまぴーを食べた時、その強い甘さにふと思い出した味がある。それは幼稚園児の頃に食べた、父の丸焼きピーマンの味だった。その日、珍しく台所に立っていた父は、おやつとして食べるために緑色のピーマンを網に載せて焼いていた。父の実家は農家だったので子どもの頃は自分で野菜を畑から採ってきては焼いて食べていたという。ピーマンがしっとりと焼きあがると、父は私にも取り分けてくれた。父の真似をして、焦げた皮をつけたまま醤油を少し垂らし、丸ごとかぶりついてみた。焦げ臭さも気にならないほどに強い甘みを感じ、トロッとやわらかい食感もよかった。初めて丸ごと焼いたピーマンを食べ、そして初めてピーマンをおいしいと思った瞬間だった。
以来、あまぴーを食べるたびに、幼い頃に父と食べた丸焼きピーマンの記憶もセットで思い出され、なつかしい気持ちが湧き上がってくるようになった。これが、私の思ひ出の味である。
野菜ソムリエとして少しずつ活動を広げはじめた頃、都内の老舗高級果物店でカットフルーツ商品を担当するようになった。それがきっかけでカッティングの楽しさを知った。仕事として、また、自宅で料理をする時の「やらなければならない」作業が「やりたい」作業に変わっていった。そして、自分が楽しいと思うことを他の人にも教えたいと思うようになり、ベジフルカッティングの資格を取得するに至った。現在は自身で主催している日本野菜ソムリエ協会認定料理教室「野菜果物ビューティーサロン大熊真理のベジフルカッティング」にて、旬の野菜や果物のカット方法も伝えている。現在の拠点は東京都内が主だが、地方での出張レッスンも増えており、今後は活動範囲をもっと広げていけたらと思っている。
ブログ https://ameblo.jp/vege-fru-beauty-mari/
タナカトウコ
/取材・文
野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
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