私は1月1日生まれである。元旦といえば、営業しているケーキ屋さんは少ない。当然ながら学校も冬休みで、みんなのように友だちと誕生日を楽しむこともなかなかできなかった。そんな寂しい思いをしている私のために、毎年、母は手づくりのバースデーケーキを焼いてくれた。
母がつくるケーキは、決まって「りんごケーキ」である。直径20cmほどの丸い型にケーキ生地を流しこみ、皮ごとスライスしたりんごを差し込むようにのせて焼いたものだ。生クリームやチョコレートプレートなどの装飾はないが、赤いりんごの皮がいいアクセントとなっていた。そこにその年の私の年齢の数だけカラフルなキャンドルが灯された。シンプルなケーキだが私にとっては充分な華やかさがあった。
ケーキの外側はカリっと、内側はふんわりと焼き上がっていて、りんごにはシャキシャキとした食感が残っている。噛むほどにりんごの自然な味わいが口にひろがって、とてもおいしかった。私は、母の思いが伝わってくる、このやさしい味が大好きだった。一口食べるたびに幸せな気持ちになり、これでまた一年頑張ろうという気持ちにもなれた。うれしい気持ちはおいしい食べ物で満たされ、おいしい食べ物があれば幸せを伝えられると気づくことができたのも、このりんごケーキのおかげだと思う。私にとって母のりんごケーキはそれだけ特別なものなのである。
最近では元旦から営業しているケーキ屋さんも増えてきたが、今年の誕生日も母はりんごケーキを焼いてくれた。私が毎年楽しみにしていることを知っているからだろう。誕生日は自分が生まれた特別な日であると同時に、今まで育ててくれた親に感謝をする日だとも思っている。母のつくるりんごケーキを味わうごとに、母への感謝の気持ちも忘れずに伝えるようにしている。
さて、私の人生の節目には「りんご」が登場することが多い。農業や品種改良の分野に興味を持ったきっかけのひとつに、中学二年生の時に出会った『奇跡のリンゴ』という小説がある。その本を通して、農業のすばらしさを感じ、学びたいと深く思うようになったのだ。そして国立大学の農学部へと進学し、現在は大学三年生である。
野菜ソムリエになろうと思ったのは、大学一年の頃だ。野菜の知識をもっと身につけたいと考えてのことだった。資格取得後は、めずらしい野菜を見かけると食べてみたい、知ってみたいという意識が高まった。また、バランスのよい組み合わせで食事をしようと心がけるようにもなった。昨年末、通信講座で野菜ソムリエプロの資格を取得した。現在の主な活動はSNSでの情報発信だ。インスタグラムで野菜のイラストを描き、野菜の魅力やおいしさを伝えている。これからも、多くの人に野菜のすばらしさを伝える野菜ソムリエでありたい。母が私にそうしてくれたように、人においしさを伝えることで、その人が幸せな気持ちになれればいいなと思っている。
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タナカトウコ
/取材・文
野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
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