野菜ソムリエの思ひ出の味
おじいちゃん家の裏山のシイタケ

 子どもの頃、日曜日の楽しみと言えば、車で15分ほどのところにある祖父の家に行くことだった。祖父は川沿いの細道を抜けたところを畑にしていて、冬は白菜や菊菜、夏はトマトやナスなど、季節ごとにいろいろな野菜をつくっていた。今でいう家庭菜園といった感じである。父と私は、祖父の元を訪れるたびに好きな野菜を勝手に収穫して持ち帰ったものだった。その中でも特に楽しみだったのが、祖父の家の裏山で栽培していたシイタケである。

 裏山のシイタケの収穫時期は3月から4月頃だった。濡れ落ち葉を踏みしめながら坂を上がっていくと少し開けたところに出る。昼間でも竹の間から少し日が差すくらいの薄暗い雰囲気で、湿気のある場所だ。そこにシイタケのほだ木がずらっと並べられていた。大体70〜80本くらい、多い時は100本近くあった。祖父は原木選びにこだわりを持ち、どんぐりの木を山から切ってくるときに、古くないもの、樹皮が厚くないものを選んでいたという。
 丸太からぽこぽことシイタケが生えている光景はとてもかわいらしく、面白いとも思った。そして、そのシイタケをもぎとるという体験は非日常のことに感じられた。祖父からは、開ききる前のカサをかぶったような形を選んで採るように教えてもらい、私はちぎれないようにそろりと採った。祖父と父と一緒に手のひらぐらいのしいたけを10個ほどもぎとると、竹ざるに入れて自宅へ持ち帰る。それがいつものことだった。
 もぎたてのシイタケは、早速その日の夕飯に登場する。父、母、弟との4人で食べるのがとても楽しかった。特に、バターをたっぷりひいたフライパンでさっと火を通し、そこに醤油を垂らして食べるのがとても好きだった。シイタケ本来のうまみを味わえる最高の逸品だった。

 さて、私が野菜ソムリエになったのは、12年ほど前に自分の人生観が変わるような重い病気をしたことがきっかけだ。先々健康的に生きていくためのひとつと考えたのだ。仕事を長期で休んだのちに辞めることになり、勉強する時間があったというのも後押しとなった。
 資格取得後は、1日350g以上の野菜摂取だけでなく、調理法がわからない珍しい野菜やこれまで食べたことのなかった野菜にも積極的に挑戦するようになった。時には仕事が忙しく、野菜不足を感じる日がある。そんな日は、疲れがとれにくく、元気が出ない気がする。野菜をしっかり食べることは、やはり体力や健康の維持につながっているのだと感じている。
 2017年には、ベジフルフラワーアーティストプロフェッサーの資格も取得。現在は、ベジフルフラワーで地元滋賀県の野菜の魅力を伝えることを軸に活動中である。新型コロナウイルスの収束後、ベジフルフラワーアーティスト地域校(滋賀校)の開校も予定している。滋賀県にこんな野菜があったんだと、野菜が好きではない方にも興味を持って食べてもらえるよう、地元野菜の魅力を伝えられる野菜ソムリエでありたい。そして滋賀県の生産者さんに少しでも役立てたらと思っている。

和田直子さんのプロフィール
滋賀県在住。野菜ソムリエプロ、ベジフルフラワーアーティストプロフェッサー。1年を通して滋賀県内の生産者から直接仕入れた野菜を使って季節のベジフルフラワーのワークショップを開催、また大津市内でシェフの夫とともにレストラン「近江牛と近江野菜グリル漣」を経営。多方面から滋賀県産野菜の魅力を伝えている。
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タナカトウコ

/取材・文

野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
ホームページ http://urahara-geidai.net/prof/tanaka/
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