茨城県鉾田市は日本一の生産量を誇るメロン産地だ。なかでもJA茨城旭村のメロンのクオリティは群を抜いている。その裏側にある多大な努力を知ったのは2008年、地元茨城県の野菜ソムリエコミュニティが主催したメロン勉強会でのことだった。
勉強会は全農いばらき本部が経営する「ポケットファームどきどき」の一角で行われた。前半はメロンに関する座学。コミュニティのメンバーでもある県の農業改良普及員さんに講義をしていただき、所長からもメロンのレクチャーを聞くことができた。後半はメロンの大試食会だ。県内各地から取り寄せたメロンが机上にずらりと並び、参加者の顔には笑みがあふれていた。
食べ比べしたのは、ノーネット系の「シグナル」「ホームラン」「キンショー」「パパイヤ」、ネット系の「優香」「味の香」「アールスメロン」、赤肉系の「レノン」「クインシー」、アンデスメロンの「アンデス1号(愛ちゃんメロン)」「アンデス5号」など。スーパーではあまり見かけなくなったマイナーなメロンでも、それぞれに異なる風味や食感が感じられ、品種ごとの個性が奏でるおいしさに私はすっかり魅了された。糖度の高さだけを良し悪しとするのは違うなと思うきっかけにもなった経験だった。
講義では、最大規模のメロン産地である茨城県でさえピーク時の半分しか生産量がなく、農地も年々減少し続けていると聞き、衝撃を受けた。そしてもっとメロンのことを知りたいと思うようになった。イベント等を通じてメロン農家さんとの接点を増やし、ハウスの中を見せてもらったり、話を聞いたりして、メロン栽培にはいかに苦労が伴うかも思い知った。1玉1玉受粉させて、摘芯して、何百という苗が植わっている50メートルも80メートルもある長いハウスを何十棟も抱え、毎日風向きやお天気を見ながら換気を調整して、その他にも各種農作業が半年以上も続く。ただただすごいと思うばかりだった。
さらにJA茨城旭村では光センサー選果をどこよりも早く導入し、「中身が見えるメロン」として流通をスタートさせていることにも強く感銘を受けた。ひと玉ずつ光センサーを通して個体管理され、生活者は個体に貼られた識別QRコードを読み取れば、誰が育てたか、いつ検査したか(いつ食べ頃か)、糖度は何度かといった情報が得られるという。
メロンは網目や形状などの外観のみでランクが判断されることが一般的だが、QRコードで一元管理されているJA茨城旭村のメロンは、素人でも食べ頃を逃さず、誰もがハズレなしで味わえるのが最大の魅力だ。中身の情報まで包み隠さず最終消費者へと届けるメロン産地が当時唯一だったことも、深く印象に残った所以であろう。この仕組みを導入しているメロン産地は今でも数少ない。機械で正確に判断された点数が否応なく皆に開示されてしまうこの仕組みは、生活者にとっては便利だが、農家さんにとってはリスクを伴う。しかしJA茨城旭村の農家さんたちは一生懸命よいものを出荷しようと努力され、メロンと日々真摯に向き合っておられた。私はこのメロンの魅力を自分の手で伝えたいと強く思うようになった。
同時に、これまで仕事で農産物は数々見てきたけれど、人までは見えていなかったようにも思えてしまった。農業の向こう側にはそれを生業として生活をしている人がいて、一つ一つの農産物にも人のストーリーがある。生活者の日常からは見えない、生産者の人の部分をより伝えていける野菜ソムリエでありたいと意を新たにした。それが私の理念「一次産業が‟健康“(健全)でなければ、私たち(生活者)の健康はつくられない」へとつながっている。
さて、JA茨城旭村では4月から春メロン「オトメ」が始まり、GW明けには「アンデス」「クインシー」と続いて6月末までの3ヶ月間収穫・出荷される。7月からは10月までの間は「アールス」の出回り時期だ。もちろん光センサーで選果して全国の各市場へと届けられる。店頭で見かけたら、農家さんの心意気をぜひ感じてほしいと思う。
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タナカトウコ
/取材・文
野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
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