東京でレストランマネージメントの仕事に情熱を燃やし、バリバリと働いていた頃のことだ。当時の私は資格を取りたい気持ちはあったが、何の資格か決めていたわけではなく、ただ漠然と「人が持っていないような個性的な資格を取りたい」とだけ思っていた。
そんなある日、仕事の休憩時間に何気なく本屋へと足を向けた。いつものようにマーケット分析やトレンド分析のつもりで店内を歩いていると、「野菜ソムリエ」という本が目に飛び込んできた。手に取って本を開いてみると、何やら胸がドキドキした。まるで新しいモノを発見した少年の心が蘇ったようだった。こんな気持ちになったのは、中学生の時にロックンロールに出会った時以来だろう。「この資格を取ってみたい」と強く思った。
早速、ジュニアベジタブル&フルーツマイスター(現・野菜ソムリエ)を受講して資格を取得。そして迷うことなくベジタブル&フルーツマイスター(現・野菜ソムリエプロ)講座へと駒を進めた。私が受講した2004年の「渋谷8期」は、レストラン関係者、仲卸、種苗会社、行政、スーパーマーケット、八百屋など、各業界から幅広く受講生が集まっていた。野菜に関する疑問やわからないことへの答えは、誰かしらが知っている。講座終わりに声をかけあって飲みに行くようになり、次第にそれは勉強会も兼ねるようになっていた。その際に、意気投合したメンバーとは「料理好きメンバーを集めて料理会をやりたいですよね」と盛り上がってもいた。
しかしカリキュラムがすべて終了した時、この仲間たちとのつきあいも終わってしまうように思えた。せっかく野菜料理好きの仲間ができたのに、このままではいけない。そんな思いから、料理会に賛同していたメンバーに声をかけ、クッキング同好会をスタートさせたのだった。
初回のテーマは「イタリアン」に決まり、私は「イエローズッキーニ」をいかしたペペロンチーノをつくることにした。縦に半割したイエローズッキーニを縦方向に5ミリ幅にスライスし、ガーリックオイルでやさしく炒め、茹でたパスタと合わせたものだ。当時、イエローズッキーニはまだ珍しくなかなか手に入らない野菜だった。そんな野菜を彩りよくパスタに仕上げれば、みんなが驚き感動してくれるのではと考案したレシピだ。
メンバーからは、「彩りがキレイ」「強面なのにお洒落なパスタをつくるんだね」「野菜の味が濃厚に感じられておいしい」と大好評だった。みんなの笑顔とキラキラした目は今も忘れられない。野菜ソムリエの講座を受けてよかった、この仲間と出会えてよかった、クッキング同好会をつくってよかったと心の奥底から思った瞬間だった。
クッキング同好会はその後何度も実施しているが、この「イエローズッキーニのペペロンチーノ」が私の活動の原点となっている。野菜で仲間を感動させる喜びを体感したことで、野菜でおいしい料理をつくり周りの人々を感動させていこうとあらためて思うようになったからである。その熱い気持ちは、今も継続して持ち続けており、東京から秋田に戻ってきてから開催しているレストランイベント「たまねぎ食堂」に引き継がれている。
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タナカトウコ
/取材・文
野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
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