野菜ソムリエの思ひ出の味
愛情こめてつくっているわが家のトマト

 私はトマトの生産者である。農家歴は40年。ハウス桃太郎ホープをハウスで栽培している。9月下旬に定植して、収穫は12月中旬から始まる。その後6月中旬まで収穫が続き、トマトが「喉が乾いた」と言えば水をあげ、「暑い」と言えば日陰をつくってあげて、「お腹が空いた」と言えば肥料を与える。トマトは愛情をこめればこめるほどちゃんと応えてくれる野菜だ。子育てと一緒だなと感じている。

 トマトは万能野菜である。サラダだけではなく、焼いても、煮ても、ソースにしてもおいしい。講師をつとめる料理教室では、ほぼ毎回トマト料理を紹介している。レッスンで使うトマトは、もちろんわが家で育てたトマトだ。収穫したてのトマトをみんなで調理して食べた時、生徒さんたちからは、「キヤー!!おいしいです。ピチピチしていますね」とか、「輝ちゃん先生のトマトが一番おいしい」といった声がもれる。私がもっともうれしい瞬間である。
 レッスン終わりにはトマトをお土産にプレゼントしているが、わが家のトマトのファンになってくれた生徒さんたちは、その後も直売所で購入して食べてくださっているという。ありがたいことである。

 そんなある日、いつものように生徒さんへトマトをプレゼントした。その日参加されていた方の娘さんは病気で食欲がなかったそうだが、持ち帰ったトマトだけは喜んで何個も食べたという。生産者冥利に尽きるとはこのことであろう。娘さんは「トマトの人に会いたい!」と言って後日わが家まで遊びにも来てくれた。そしてますますトマトが食べられるようになったそうだ。この話を聞いて、あらためて、自分の子どものように愛情をこめてトマトをつくって行こうと心に誓ったのであった。

 野菜ソムリエになるきっかけは、県の女性農村アドバイザーをしていた10年前、桑原なみさんの講演を聞く機会をいただいたことだ。私も桑原さんのようになりたいと思い、翌年には野菜ソムリエの資格を取得した。資格取得を通してたくさんの人とつながり、多くの仲間が増えていった。今では野菜ソムリエコミュニティ福岡の副代表をつとめるに至っている。
 私はこれからも生産者として、新鮮な野菜果物を生活者の方にもっともっと紹介していきたい。農家ならではの活動をたくさんしていきたいと思っている。

貝田 輝子さんのプロフィール
福岡県在住。野菜ソムリエプロ、ベジフルフラワーアーティストプライマリー。トマト生産者明るい農ガール、新鮮な野菜果物を生活者に届けたくて、輝ちゃんの新鮮野菜料理教室や食育講座などしている。
photo
written by

タナカトウコ

/取材・文

野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
ホームページ http://urahara-geidai.net/prof/tanaka/
インスタグラム toko_tanaka