よく晴れた夏の日の午後のことだったと思う。妹と庭で遊んでいると、「シソの葉200枚とってきてー」と母から頼まれた。“思ひ出の味”とイメージして脳裏に浮かぶのは、この小学生の頃の記憶の断片である。
自然あふれる地で育った私にとって、自宅の庭つづきにある畑は遊び場のひとつでもあった。また、両親が育てた野菜を収穫するのは、とてもワクワクして楽しかった印象がある。私はすぐさま「はーい!」と返事をして、「シソ採りにいくよー!」と妹を誘った。シソを入れるかごを手に取って畑までかけていき、幼い妹も私のあとをついてきていた。
畑のあちこちでふさふさと生い茂っているシソから、大きめで虫食いの無いきれいな葉を選び、手で葉のつけ根(葉柄)あたりを摘んでかごに入れていく。母が摘みとる様子をみていたり、よく手伝ったりしていたので、シソの葉の摘み方は自然と身についていた。妹と、それぞれに葉を数えながら楽しく摘んでいき、子どもでも200枚摘むのにそんなに時間はかからなかった。
かごいっぱいのシソの葉を抱えて急いで家に帰ると、母は早速シソジュースづくりにとりかかった。まずはシソの葉をよく洗い、一升の水に入れて煮出す。粗熱をとり、クエン酸を入れて混ぜ合わせれば、シソジュース原液のできあがりだ。
私はそれをコップに入れ、水で薄めるお手伝いをした。シソジュースはとてもきれいな色をしていて、私はコップを光にかざし、その美しさをじっと見ていた。最初はどんな味かなーと思っていたが、大人がおいしそうに飲んでいたので、おそるおそる飲んでみたらおいしかったことを覚えている。
赤ジソがたくさん手に入る時はシソジュースがおすすめだが、青ジソならミョウガなどの香味野菜と一緒に細かく切って冷ややっこやそうめんなどの薬味、春巻きや餃子の具など、いろいろな方法で普段使いできるところがシソの魅力である。
自宅の畑では、毎年、種が落ち自然と畑のあちらこちらにシソが芽を出し、夏にはシソジャングルができる。今年もシソの芽がたくさん出てきている。このシソの葉で、母は今もシソジュースをつくる。この夏も縁側で家族とシソジュースを飲めるのは、うれしく、またおいしく感じることだろう。
四季折々でさまざまな野菜が身近にある環境で育ったことは、野菜ソムリエの資格に関心を持つきっかけにもなった。会社員時代に、ずっと続けられることを探すなかで、野菜ソムリエの資格を知って受講。2008年3月には、野菜ソムリエ上級プロを取得した。現在は、ふるさと千葉県いすみ市に住み、食と農の分野を軸にまちづくり活動に取り組んでいる。野菜や果物の多面的な魅力も伝えつつ、引き続き、地域の皆さんと地域課題の解決や活性化に取り組んでいきたいと思っている。
ブログ:毎日が宝探し
タナカトウコ
/取材・文
野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
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