野菜ソムリエの思ひ出の味
畑で食べたとうもろこし

 今から数年前のこと。もともと料理好きで、かねてから自分でつくった野菜で調理をしたいと考えていた。平日はサラリーマン生活だが、週末は土に触れてリフレッシュしたいと思い立ち、当時住んでいた大阪市から20分ほどの地の貸し農園を借りることにしたのだった。
 私が借りたのは、30区画のうちの1区画(3m×5m)。自分で野菜を栽培するのは人生で初めてのことだった。初日は土づくりのみ。野菜づくりの基本として、まず土づくりの大切さを知った。4月になって、ミニトマト、キュウリ、ナス、トウモロコシ、枝豆、サツマイモの苗を定植。その日はとても清々しい天候の日だった。初めて植える野菜たちが大きく育つよう願いながら植えたことを覚えている。
 その後、週末になると貸し農園へと足繁く通い、水やり、草むしり、肥料やり、脇芽とりなどのお手入れを行なった。収穫までの3ヶ月間は虫との闘いもあった。

 初めての収穫は、ナス、キュウリ、ミニトマト。次にトウモロコシも収穫時期をむかえた。一本の苗に大きなトウモロコシの実が1〜2本、緑色の葉に包まれて実っていた。上を向いて実っているトウモロコシの実をパキッと下に折り曲げるようにすると、思ったよりも簡単にもぎ取ることができた。収穫できたトウモロコシは8本。それぞれ30cmほどの大きさだった。
 いつも様々なアドバイスをくれる隣の区画のおじさんから「トウモロコシはもぎたてをそのままかじるとおいしい」と教わり、その場で思いっきり皮をむいて一気にかぶりついてみた。甘さとみずみずしさが、それまで食べたことのあるトウモロコシとは全く違っていた。初めて自分で育てたトウモロコシがしっかり成長し、甘くおいしくできたことに感動した。畑の中で採れたて野菜を食べる経験も初めてだったこともあり、どの野菜よりも強く印象に残っている。

 収穫した野菜は、料理好きな友人にお裾分けすると「いつも食べているのと新鮮さが全然違う」と喜ばれ、料理で友人に振る舞うと「おいしいおいしい」と喜んでもらえた。その反応のひとつひとつが嬉しく、これらの経験から自分で野菜をつくることの楽しさを知ったと同時に、新鮮野菜のおいしさを他の人にも広めたいと思うようになった。当時はサラリーマンだったが、自分で収穫した野菜をつかって、人に喜ばれるような料理を振る舞いたいと思い、いつか飲食業をしたいと漠然と考えるようにもなっていった。
 野菜に関する知識を体系的に学ぶことができ、世間的にもよく知られた資格の形で残せる点にも魅力を感じ、2018年12月に「野菜ソムリエ」の資格を取得。その後、いろいろなタイミングが重なって2020年に脱サラした。現在は、淡路島で見つけた古民家に移住して、飲食業(弁当屋、キッチンカー)と宿泊業を営んでいる。宿では、家の畑で育てた野菜や地元淡路島の食材をふんだんにつかい、味付けには甘酒や塩麴などの発酵食材を用いて、ヘルシーさを心がけた料理を提供している。お客様からは「野菜がたくさんとれていい」「体が軽くなる」など、うれしいコメントをいただく。これからも、弁当屋や、宿での食事提供を通して、多くの人に野菜のおいしさを伝えていけたらと思っている。

わたなべ ゆうやさんのプロフィール
兵庫県淡路島在住。野菜ソムリエ。大阪在住のサラリーマン時代に野菜をつくったり食べたりする楽しみに魅了され、野菜ソムリエを取得。現在は、淡路島に移住し、地元の野菜や発酵食を活かした弁当作りや、キッチンカーでの販売、食事付きの古民家宿の運営をしている。
インスタグラム:@good_bento_2020
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written by

タナカトウコ

/取材・文

野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
ホームページ http://urahara-geidai.net/prof/tanaka/
インスタグラム toko_tanaka