2015年8月19日UP
平成25年、日本人の伝統的な食文化「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたのはご存知の方も多いでしょう。四季が明確で、南北に長く、海、里、山と地形の変化にも富む日本。地域ごとに受け継がれている伝統的な食文化も多数存在し、それもまた和食が持つ魅力のひとつとされています。しかしながら、多くはまだまだ世に知られず、地域に眠っていることも。それを発掘し、全国に発信する「フードアルチザン(食の匠)」活動なるものがあるらしいと小耳にはさみ、その活動の立ち上げをされた、イオンリテール(株)の岡澤正章さんにお話を伺ってきました。
この活動を始めたきっかけは?
岡澤さん:
2001年にお客様アンケートをとった際、「後世に食文化を残す活動をするべきだ」というご意見がありました。それをきっかけに全国各地で郷土の味を守り続ける生産者“食の匠”を全国から募集したのが、そもそものはじまりです。
当時、どのくらい応募があったのですか?
岡澤さん:
自薦他薦合わせて、900~1000もの応募がありました。それをまずは150に絞ったのですが、それを並べておくだけでは、その良さは伝わらない。紆余曲折があったのち、2006年に「フードアルチザン」という地産地消のブランドを立ち上げることになりました。
地産地消のブランドとは、どのようなことでしょうか?
岡澤さん:
「伝」いにしえの価値を次世代へ
「育」日本の食文化を守り育てる
「拡」知る人ぞ知る地域の食を日本中に発信
この3つのコンセプトをもとに全国各地の生産者の皆様と手を携え、日本の優れた食文化の継承、さらには新しい食の価値提案、食文化の担い手の育成、地域経済活性化への貢献を目的に、今では地産地消だけでなく、地産全消(日本全国)、地産外消(海外)も意識したブランドとなっています。
岡澤さん:
現在、フードアルチザン活動を展開している地域(食材)は、34種類。調味料もありますが、大半は野菜・果物です。それぞれに地域と共同した協議会が設立され、栽培技術向上のための勉強会を開催したり、テスト販売をして商品としての可能性を探ったり、「後世に残すべき食文化なのか?」ということも含めて様々な検討が行われます。そして、おおよそ2年もの歳月をかけて、じっくりと慎重にブランド化が進められます。
地産外消!それは産地としても夢がひろがりますね。
34種類のなかには、どのようなものがありますか?
岡澤さん:
「安納いも」はご存知ですか? 2006年、鹿児島県にイオングループの店舗がオープンしました。当時、「安納いも」は、種子島の限られた地域で栽培されていて、一般的なさつまいもに比べて外観の色みなど一見見劣りするため市場価値が低く、売れないものとされていました。しかし、甘みが強く、故郷では古くからおやつにかかせない逸品だという。蜜のような食味は、これまで日本にないカテゴリー。これはいい!ということから、西之表市、JA種子屋久、JA鹿児島経済連とパートナーシップを組み、「種子島安納いも食産業幹事会」を設立。ここから、フードアルチザン活動が始まりました。
岡澤さん:
安納いもは、終戦後、スマトラ島から復員した方が西之表市安納地区で栽培したのが起源。現地で食べてとてもおいしかったので、6~7個持ち帰ってきたのだといいます。「種子島安納いも食産業幹事会」の取り組みにより、品質と生産の安定、加工品の開発、販路の拡大などを図り、活動当初は380トンだった出荷量が5年で4000トンまで拡大。今では、耕作放棄地も安納いも畑となり、地元の一大産業となっています。
「安納いも」がメジャーになった背景には、
そのような物語があったのですね。
岡澤さん:
じつはそうなのです。フードアルチザン活動の目的は「地域活性」でもあるため、あえて当社のプライベートブランドとして独占販売はせず、地域ブランドとして幅広く流通させています。
「種子島安納いも食産業幹事会」では、安納いもの加工品開発も行っています。いろいろあるなかでも、手軽に食べられる冷凍焼き芋が人気です。レンジで温めて食べてもいいですし、自然解凍してシャーベットのように食べるのもおすすめです。
フードアルチザン(食の匠)活動を展開している野菜・果物には、それぞれにストーリーがあるようです。岡澤さんからお聞きした興味深いお話は、後編へ続きます。
取材協力
イオンリテール(株)
ホームページ http://www.foodartisan.jp/
取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ