取材ノート
「食べられない」を「食べられる」へ
「低カリウムレタス」の生産拠点を訪問!(前編)

2016年11月9日UP

昨今、スーパーの野菜売り場では植物工場で生産された
パック入りの様々なレタスを見かけるようになりましたね。
なかでも人気急上昇は「低カリウムレタス」とのこと。
そこで、低カリウムレタスの量産化に日本で初めて成功した
「ドクターベジタブル」について取材してきました。

はじめに、ドクターベジタブルジャパン株式会社の児玉さんに
お話を伺いました。

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■「低カリウムレタス」とは、どういう商品ですか?

児玉さん:
名前の通り、カリウムの含有量が少ないレタスのことです。
 
透析患者・腎臓病患者の方の多くは食事療法を行っていますので、カリウムが多く含まれている生の野菜や果物を食べることを控えています。必要以上のカリウムを摂ってしまうと高カリウム血症になってしまい、時には、不整脈をおこし心肺停止という深刻な例もあります。こうした「生野菜が食べられない」という方々にも安心して食べていただけるようにしたのが「プレミアム低カリウムレタス」です。
しかし最近では、「低カリウム」だけではなく、「洗わなくても良い」「無農薬栽培」「長持ちする」などの利点から注目され始めていて、一般の方にも美味しく食べていただいています。

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■一般的なレタスと味は変わらないということですか?

児玉さん:
はい、むしろ味がよいという評判もあるほどです。

■なぜ、一般的なレタスでなく
「低カリウムレタス」を選ばれたのですか?

児玉さん:
当社は植物工場でいうと後発の参入でした。通常のレタスでは価格競争になってしまう。そこで、病気などにより食事を制限されている方の「食べたくても食べられない」を「食べられる」に変えられるという「社会的意義」と「付加価値」を選びました。
定期的な人工透析が必要な患者は国内で32万人、また、慢性的な腎臓病患者は、約1330万人とされ、この数字は日本人の成人の8人に1人に相当します。現在も、透析患者や腎臓患者は増え続けています。最近では、慢性腎臓病の症状をできるだけ進行させないため食事療法は重要視されています。

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■そんなに多くの方が生の野菜を食べられないのですね。

児玉さん:
そうなんです。野菜を茹でこぼすと、ある程度のカリウムを抜くことが出来るのですが、レタスを茹でてしまったらシャキシャキ感がなくなってしまいますよね。

■シャキシャキ感が味わえないのは寂しいですね。

児玉さん:
ご家族と同じものが食べられないというのは、患者さん本人にとってもご家族にとってもストレスになります。そんな「食」へのストレスを少しでもなくし、食べる喜びを感じてもらいたいという思いも、低カリウムレタスには詰まっているんです。
現在、新製品の研究も進めていまして、2017年度には低カリウムトマトを発売予定です。また、特別な栄養素を増やした野菜などの研究も進めています。

■楽しみですね。
 さて、生産の現場について詳しく教えてください!

児玉さん:
では、昭島植物工場へ行きましょう。こちらは、当社のフランチャイズで低カリウムレタスを生産している昭和飛行機工業株式会社です。野菜事業室長の白須さんに説明頂きますね。

■一見したところ、野菜が栽培されているようには
 とてもイメージできない建物ですが・・・

白須さん:
そうですね。低カリウムレタスは2階で生産していますが、
他のフロアではボーイングの部品や内装材など航空機用の製品を作っています。
JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」の筐体など宇宙衛星関係の製品も扱っています。

■全く違う分野ですね。なぜ、野菜を作ることに?

白須さん:
新規事業を探していた時にアグリ分野も面白いと思いまして色々調査をしていました。当社のノウハウを使った「農業の工業化」により可能性があるのではない考え、2014年から低カリウムレタスの生産を開始しました。
 
3.11(東日本大震災)以降、子どもに安全な野菜を食べさせたいという意識の高まりからか、植物工場の野菜に飛躍的な伸びが見られます。閉鎖型の工場内で栽培しますから、病害虫対策の農薬は不要ですし、野菜に付着する菌数も露地物に比べて格段に少ない。それによって鮮度も長く保たれるメリットもあります。また天候に振り回されることなく、安定的に供給出来ることも工場産野菜の魅力と言えるでしょう。

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■どのようなメカニズムで
 低カリウムレタスになるのですか?

白須さん:
野菜を栽培するときに肥料の三大要素は「窒素」「リン酸」「カリウム」です。
カリウムがないとレタスは大きく生長しなくなります。なので、成長段階では通常のレタスと同様に育てますが、あるステージに達した段階で、カリウムを抜いた特別な肥料を使用し、低カリウム化を行います。

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■ちなみに品種は何ですか?

白須さん:
ドクターベジタブルの低カリウムレタスに採用されている品種は「フリルアイス」です。土耕栽培に比べれば小振りな仕上がりですが、カリウムを抑えた少ない肥料でもしっかりと生長するよう工夫をこらしています。
 
では、工場内へどうぞ。
野菜生産課の斉藤課長代理が案内します。

いよいよ工場内へ!後編へつづきます

取材協力:
ドクターベジタブルジャパン株式会社 セールス・マーケティング本部 児玉 由美さん
http://www.drvegetable.jp/
昭和飛行機工業株式会社 白須 徹さん、斉藤 正隆さん
http://www.showa-aircraft.co.jp/

取材・撮影 / 文:野菜ソムリエ・ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ