取材ノート
マーケティングのプロの知見を日本の農業に活かしたい。
農家と生活者をつなぐウェブサイト「チョクバイ!」

直売所で地元の新鮮な野菜を買いたいと思った時、家族や友人と果物狩りを楽しみたいと思った時、ネットで検索しても役立つ情報になかなか出会えずに、全国の直売所や観光農園、マルシェなどの情報が集約されたウェブサービスがあればいいのにと思ったことはありませんか? そんなありそうでなかった便利なウェブサイトが昨年秋にオープンしました。その名も「チョクバイ!」。サイトを運営しているのは、博報堂DYグループから生まれたベンチャー企業です。起業からサービス開始に至った経緯や事業にかける思いなど、株式会社ファーマーズ・ガイド社代表の中島さんにお話を伺いました。

左から、取締役/アートディレクターの板倉美和さん、代表取締役社長の中島慶人さん。

そもそも、「チョクバイ!」を立ち上げたきっかけは?

農家の孫としての責任感です。わたしは鳥取県出身の田舎育ちで、祖父母は兼業ですが、農家でした。そのため、幼い頃からよく畑に連れて行かれて遊んでいたんですね。大学で地元を離れて上京し、その後博報堂で働いていたある時、実家に帰省する機会があって。ふと思い立って、その畑を見に行ってみたんです。すると、かつての美しかった景色が、草ボウボウの荒れ野原に変わってしまっていました。祖父母が農業を離れてから、担い手がいなかったので当然なのですが、なんとも言えない寂しさとともに、自分のせいで耕作放棄地にしてしまったという責任を感じました。なんとかしなければ、と考え始めた最初のきっかけです。

荒れ野原に変貌してしまった思い出の地で「チョクバイ!」のメディア取材を受ける

正直、その時まで農業のことを真剣に考えることはあまりなかったように思います。ですが、調べてみると、高齢化も進んでいるし、産業として成り立っていない側面も大きい。それは、農業者が自身で価格を決められないことも原因にあると考えました。一方で、直売所やマルシェは増えており、生活者と直接向き合う機会をつくる農業者が増えてきている。そこでは自分たちで価格を決めることができるし、買う側としても個性を感じる農家や農産物との出会いは楽しい。ここに新しい農業のヒントがあると考えています。従来型農業とは違う、農業者と生活者とが直接つながる構造の中で、マーケティングの重要性が高まっていることに気づいたんです。
 
これまで広告会社で培ってきたマーケティングのスキルやノウハウが、農業者の役に立つのでは?と考え、博報堂DYグループ57社横断で行われる社内起業制度に「農業*マーケティング」のテーマで応募することにしたんです。社会課題をビジネスとして成立させていくというのは、難しいチャレンジでしたが、無事に審査を通過し、会社を設立。そして「チョクバイ!」サイトの立ち上げに至ることができました。いまでは農家さんを訪ねて話を伺ったり、農業におけるマーケティングの必要性や重要性を訴えかけることに奔走する毎日ですが、様々な出会いに助けられながら、とても楽しんでいます。

畑に出向き、多くの農家さんにインタビューをして企画を練り上げた

「チョクバイ!」には、具体的にどんな機能がありますか?

農業マーケティングに必要な要素は3つです。
①(自分が何をつくっているか)知ってもらう 
②(そのよさを)わかってもらう
③(生活者と)深くつながる
 
まずは、農家さんのことを知ってもらうコンテンツとして、「WEBチラシ」や「インタビュー記事」があります。また、その農家さんの思いやこだわりなどを知ってもらうための「ホームページ」、それらに加えて野菜ソムリエをはじめとしたユーザーから寄せられる「応援コメント」「オススメレシピ」などの機能があります。これらの基本プランは無料で登録・利用いただけます。
 
今後は、直売所やマルシェ・観光農園に実際に足を運んでもらうためのきっかけづくりの機能、例えば来店時の購買意欲を高める、再来店を促すなどの仕組みをどんどん開発・実装していく予定です。
 
「チョクバイ!」はまだやりたいことの50%も実現できていないβ版なのですが、野菜ソムリエの皆さんのお力も借りながら、農業者・生活者双方にとって、より魅力的なサービスに育てていきたいと考えています。

サイト運営の一役を野菜ソムリエたちも担っているんですね。

はい。野菜ソムリエは、生産者と生活者の架け橋となることを目指していると聞き、自分たちと同じ志だと感じました。農家さんだけでは情報発信が難しい部分を、生活者の目線もあり、農家さんの気持ちを汲んで応援してくれるパートナーである、野菜ソムリエのみなさんにお手伝いいただいています。立ち上げ時から数十名以上の方に関わっていただいていますが、地域の食文化を盛り上げる思いは自分たちと一緒だとあらためて感じています。投稿していただいた農業者インタビュー記事や応援コメント、食材の特徴を捉えたオススメレシピは、今後、サイト上だけでなく、直売所の店頭にも出せるようにするなど、リアルの部分でも農業者と生活者をつなぐ舞台をつくっていきたいと考えています。日本の農・食を盛り上げる野菜ソムリエの皆さんの力を思う存分発揮できる舞台としても、「チョクバイ!」を盛り上げていきたいですね。

~オフィシャルサポーターの野菜ソムリエたちの声~

•羽生雅代さん

《応募理由・意気込み》

八王子には畑が多く、直売所はとても身近に感じていました。実際どのくらいあるのか、ちょっとした興味で応募しました。歩くのが好きで、散歩で発見するのがとても楽しいです。八王子全部の直売所制覇を目標に頑張りたいと思います!

《実際に利用してみた感想》

応援コメントを見ると魅力的な直売所がたくさんあります。家の近くで、畑からの直送新鮮野菜が買えるという情報は主婦にとってありがたいです。そして、地元のおいしい野菜を知ることで、地産地消、子どもの食育にも繋がると思いました。

•フジタミホさん

《応募理由・意気込み》

「農家さんにインタビュー!」というときめきが応募のきっかけ。そのインスピレーションに従ってよかったです。取材やレシピ考案を通じて、農業について改めて考えるとともに野菜の知識を見直すきっかけにもなりました。

《実際に利用してみた感想》

「チョクバイ!」を使って直売所を巡ったこの数ヶ月、枚挙に暇のないほど感動の味とエピソードの嵐。農家さんって想像以上に話し上手で野菜は個性たっぷり。野菜起点の感動を生み出す素敵なサイト、引き続き応援します!

•橋場朋美さん

《応募理由・意気込み》

私の住んでいるエリアはいわゆる直売所とは無縁のコンクリートジャングル。そんな場所でも生産者様の心が届くお店を見つけたい。そこで消費者様に気持ちのこもった野菜に出会って、何かを感じて欲しいと思いました。

《実際に利用してみた感想》

こんな場所があったのね!とアンテナショップに対する反応が大きかったように思えます。またコンビニに出張八百屋があることなど、直売に対して思っていた以上に世の中が動き始めていることを感じました。

5月15日、野菜ソムリエ協会と正式に業務提携をリリースした「チョクバイ!」、今後の発展が楽しみですね!

ぜひ、「チョクバイ!」をご活用してみてください。そしてオフィシャルサポーターも募集中です。日本の農業シーンを変える出会いをお待ちしています。

ファーマーズ・ガイドHP:https://farmers-guide.jp/

取材協力・画像提供:株式会社ファーマーズ・ガイド https://choku-buy.com

photo
written by

タナカトウコ

/取材・文・人物撮影

野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
ホームページ http://urahara-geidai.net/prof/tanaka/
インスタグラム toko_tanaka