今年もいよいよ夏本番。夏野菜が美味しい季節です。でも、猛暑や台風の影響で野菜が品薄になることも。そんなとき強い味方になってくれるのが、もやしです。天候不順で他の野菜の供給が減ると、もやしの消費量と生産量が増えるそうで、重量ベースでみるとこの30年間で、ほうれん草よりも多く消費されるようになりました。総務省の家計調査によれば、全国の2人以上の世帯で、1971年以降現在に至るまで、その購入数量が5キロを下回ることはなく、2009年以降は6キロから7キロ台を推移しており、年間で1人当たり3キロ以上のもやしを消費していることになります。
もやしは衛生管理された工場で生産されるため、天候に左右されることがなく、価格が大きく変動しないことから、物価の優等生と呼ばれてきました。緑の皮の緑豆、和名ではケツルアズキというブラックマッペ、おなじみの大豆の3種の豆から作られ、緑豆は中国やミャンマー、ブラックマッペはタイやミャンマー、大豆はアメリカ、カナダ、中国などからの輸入に頼っています。しかし、世界的なエネルギー価格の高騰、円安、原料種子の値上がりなどの影響を受け、近年、生産者が苦境に立たされています。こうした窮状を知ると、少々値上がりしても、もやしを積極的に食べて、ぜひ生産者を応援したいと感じますね。
さて、もやしの原料となる緑豆やブラックマッペの原産地はインド、大豆は中国といわれています。日本でのもやしの歴史は、平安時代に記された日本最古の薬草事典「本草和名」に「和名末女乃毛也之(まめもやし)」の名で登場します。江戸時代の「農業全書」には「緑豆をもやしにして味甚よし」との記述があり、すでにもやしが食べられていたことが分かります。本格的に普及したのは第2次世界大戦後で、特に1980年代後半から中国産の緑豆の輸入量が増え、今では緑豆もやしが国内の約9割を占めています。
各地に伝統野菜のもやし!
スーパーなどの店頭に並ぶもやしのほとんどは、北海道から沖縄県まで全国にある生産者の工場で生産されています。一方、その地域だけで大切に育てられている、特別なもやしがあります。
青森県の大鰐町が誇る伝統野菜「大鰐温泉もやし」は、門外不出の在来種の大豆「小八豆(こはちまめ)」を使った豆もやしと、在来種のそば「階上早生(はしかみわせ)」を使ったそばもやしがあり、大鰐温泉の温泉水と熱を活用した栽培方法が大切に守り伝えられています。山形県の米沢で冬の風物詩として知られる伝統野菜「小野川豆もやし」は、在来種の小粒の大豆「もやし豆」を使い、小野川温泉を活用した栽培が明治初期から続けられています。熊本県にもお雑煮に欠かせない伝統野菜で25~30センチに育つ「水前寺もやし」があります。また、埼玉県深谷市にある昭和34年創業のもやし製造販売店「飯塚商店」では、豆が持つ自然の力を最大限に生かした栽培に取り組み、こだわりが詰まった「深谷もやし」を生産しています。これらの地を訪れる機会があったら、ぜひ食べてみたいですね。
アスリート御用達のBCAAも!
もやし100g当たりの栄養価を、①緑豆もやし、②ブラックマッペもやし、③大豆もやしの3種で比較してみると、カロリーは①が15kcal、②が17 kcalであるのに対し、大豆の豆を含む③は 29 kcalとやや高め。その分、たんぱく質を比較して見ると、①が1.7g、②が2.2gであるのに対し、③は3.7gと多いのです。中でも注目すべきは必須アミノ酸で、特に運動時の筋肉でエネルギー源となるBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシンの総称)が3種のいずれにも含まれており、特に大豆もやしに豊富です。さらに、疲労回復を助けるアスパラギン酸、コラーゲンの精製や美肌に欠かせないビタミンC、造血のビタミンとも呼ばれる葉酸、体内の余分な塩分(ナトリウム)の排出を助けるカリウムも含まれています。もやしはダイエット食材の代表のようなイメージがありますが、アスリートにもおすすめの野菜であることがよく分かります。
もやしの選び方、保存法、調理のコツ!
種類ごとの特徴で選ぶのがおすすめです。緑豆もやしは、やや太めでクセがなく、シャキシャキとした食感で、炒め物や鍋料理などに向いています。ブラックマッペもやしは、やや細めながら、しっかりとした食感で、ほのかに甘みがあり、焼きそば、お好み焼き、お浸しなどに適しています。豆つきの大豆もやしは、ナムルやスープ、炒め物などによく合います。店頭で選ぶ際は、変色がなく、全体が白くて張りのあるものを、大豆もやしは豆が開いていないものを選びます。
また、もやしは日持ちしないため、購入後はすぐに冷蔵庫に入れ、できれば当日のうちに使います。保存したいときは、水洗いしてしっかりと水気をきり、生のまま食品用保存袋に入れ、できるだけ薄く平らにして、空気を抜いて密封し、冷凍しましょう。凍ったままスープに入れて調理すると、うま味が溶け出してとても美味です。
調理のポイントは、軽く水洗いして水気をきってから料理すること。加熱し過ぎると歯ごたえがなくなってしまうので、ゆでたり炒めたりする際は、サッと短時間で。ゆでるときは、もやしを鍋に入れ、もやしの1/3が浸る程度に水を注ぎ、フタをして強火にかけ、沸騰したら上下を返して火を止め、ざるに上げて冷ますと、シャキシャキに仕上がります。
沖縄ではフーチャンプルーと呼ばれる定番の家庭料理です。沖縄産くるま麩がないときは、車麩や小町麩などの焼き麩で代用可。豚肉はポークランチョンミートでもOKです。
● | 麩 | 30g |
● | サラダ油 | 大さじ1 |
● | 豚バラ肉 | 100g |
● | もやし | 100g |
● | にんじん | 50g |
● | にら | 40g |
● | 塩 | ふたつまみ |
● | しょうゆ | 小さじ1/2 |
● | ごま油 | 大さじ1/2 |
<卵液> | ||
● | 卵 | 2個 |
● | かつおだし汁 | 大さじ2 |
● | 塩 | ひとつまみ |
- 麩は水(分量外)に浸し、食べやすい大きさにちぎり、水気を絞ります。卵を割りほぐし、かつおだし汁と塩を加えて卵液を作り、搾った麩を加え、よく染み込ませます。豚肉は4センチ幅に切り、もやしは水洗いして水気をきり、にんじんは薄い短冊切りに、にらは4センチに切りそろえます。
- フライパンにサラダ油を入れて中火にかけ、①の麩を流し入れて焼き、裏返したら菜箸で粗くほぐし、皿に取り出しておきます。
- 空いたフライパンに豚肉を入れ、塩ひとつまみをふって強めの中火で炒め、肉の色が変わってきたらにんじんを加えて炒め合わせます。豚肉とにんじんに火が通ったら、もやしを加え、残りの塩ひとつまみをふって炒め、全体に油がまわったら、にらと②を加えて炒め合わせ、仕上げにしょうゆとごま油を加えて全体を混ぜ、出来上がりです。