菜果図録
好き嫌いが分かれる個性派野菜 パクチー

 夏が近づいてくると、パンチの効いたタイ料理やベトナム料理が恋しくなってきませんか。トムヤムクンなどエスニック料理に欠かせないのが、香味野菜のパクチーです。地中海地域とコーカサス地方を原産とする一年草で、セリ科コエンドロ属に分類されます。そんなパクチーの歴史は古く、古代エジプトでは薬として使われていたと伝えられています。

 世界各国で愛されてきただけあって、その呼び名も様々です。1983年に農林水産省が告示した「新野菜名称の統一」によると、和名のコエンドロ、英名のコリアンダー、中国名の香菜(シャンサイ)、中国パセリは香菜(コウサイ)に統一されていますが、昨今ではタイ語のパクチーという呼び名が一般的になりました。
 ちなみに、あの独特な匂いからカメムシソウと呼ばれることもありますが、「コリアンダー」の名はギリシャ語の南京虫(Koris)に由来するのだとか。あまりに強い香りから、食べる前に「パクチー好き?」「パクチー大丈夫?」と確認される野菜は、他にはなかなか思い浮かびませんが、パクチーを愛して止まないパクチニストにとってはたまらなく魅力的な個性派の野菜です。
 また、葉や茎はハーブや薬味のように使いますが、完熟した種子は甘く爽やかな芳香を放つスパイス「コリアンダーシード」として活用され、「胡荽子(コズイシ)」という名で健胃効果のある生薬としても用いられています。

パクチーの種類と産地

 本場タイではパクチーは3種類あり、日本でおなじみのパクチーは「パクチー・ラー」と呼ばれています。「パクチー・ラオ」はラオス国境から広まったセリ科イノンド属の一年草で、ハーブのディルにそっくりなのだとか。「パクチー・ファラン」はセリ科ヒゴタイサイ属の二年草で、ノコギリコリアンダーとも呼ばれ、ギザギザとした大きく長い葉が特徴で、香りが強く、タイやベトナムでよく使われているそうです。日本で入手しやすい種類としては晩抽系コリアンダーの「サワディ」「ナリー」「サバイ」などがあります。
 国産のパクチーは春から初夏にかけて多く収穫されますが、ほぼ年間を通して出荷されています。農林水産省が発表した地域特産野菜生産状況調査の令和2年産の統計を確認すると、全国で生産されている収穫量571トンのうち、1位は福岡県153トン、2位は千葉県133トン、3位は茨城県95トン、4位は静岡県85トンと続き、岡山県、埼玉県、大分県、長野県、佐賀県、北海道など全国各地で生産されています。

パクチーの栄養学と匂いの秘密

 パクチー100gあたりに含まれる栄養素をチェックしてみると、体内でビタミンAとなって粘膜や皮膚を健やかに保つ働きで知られるベータカロテンが1700μgと豊富で、免疫機能の強化や美肌に役立つビタミンCは40mgと温州みかんよりも多く含まれています。造血のビタミンとして知られる葉酸は69μg、止血のビタミンと呼ばれるビタミンKは190μg、体内の余分な塩分(名という無)の排出に役立つカリウムは590mg含まれており、栄養価にすぐれた緑黄色野菜であることが分かります。
 ところで、パクチー特有の匂いは、ヘキセナールやデセナールという成分によるもの。特に葉に多く含まれるデセナールはカメムシに含まれる成分と同一で、その香気成分の構造は、なんと加齢臭の原因成分として知られるノネナールとよく似ているとのことで驚きました。

パクチーの選び方と保存のポイント!

 葉がみずみずしく、緑色が鮮やかで、茎があまり太過ぎず、葉先までシャキッとしているものを選びましょう。鮮度が落ちると、葉が黄色くなってきます。
 保存の際は、乾燥しないように湿らせたキッチンペーパーで根元を包んでから全体をポリ袋に入れ、葉を上にして立てた状態で冷蔵庫の野菜室へ。根がないものは全体を湿らせたキッチンペーパーで包んでからポリ袋に入れ、同様に冷蔵を。そして新鮮なうちに早めに使い切りましょう。
 すぐに使い切れないときは、葉と根を切り分け、葉と茎は使いやすい大きさに刻んで食品用保存袋に入れ、根はラップで包み、冷凍保存するのがおすすめです。調理の際は解凍せず、そのまま使います。

パクチー肉みそ冷やしうどん

 パクチーの葉と茎を刻んで加えた香り豊かな肉みそを、冷たいうどんにかけ、生のパクチーを添えました。パクチー肉みそは、そうめん、ご飯、冷奴とも相性バツグン!レタスにのせて食べても美味です。たっぷり作って冷凍しておくと便利です。コチュジャンの量はお好みの辛さに調整してくださいね。

材料(2人分)
パクチー 1束
鶏ひき肉 200g
おろしにんにく 小さじ1
ごま油 大さじ1
みそ 大さじ2
みりん 大さじ2
しょうゆ 大さじ1
きび糖 小さじ1
コチュジャン 小さじ1
うどん 2人分
作り方
  1. パクチーは後でのせる葉を取り分け、残りの葉と茎を細かく刻みます。
  2. フライパンにごま油とおろしにんにくを入れて中火にかけ、いい香りが立ってきたら鶏ひき肉を入れて炒め、火が通ったら刻んだパクチーの葉と茎を加え、みそ、みりん、しょうゆ、きび糖、コチュジャンを加えてよく混ぜながらて炒め合わせます。
  3. 乾麺や冷凍のうどん2人分をゆでて冷やし、器に盛り、パクチー肉みそをのせ、生のパクチーの葉をたっぷりと添えます。全体をよく混ぜて召し上がれ!
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written by

堀 基子

/文・写真

野菜ソムリエ上級プロ。J Veganist。冷凍生活アドバイザー。アスリートフードマイスター3級。ベジフルビューティーセルフアドバイザー。ジュニア青果物ブランディングマイスター。アンチエイジング・プランナー。受験フードマイスター。第6回・第8回野菜ソムリエアワード銀賞受賞。