野菜ソムリエの思ひ出の味
母が作った「だいごぱじる」

2015年5月13日UP
幼い頃の食卓の風景といえば、母がいつも作ってくれていた「だいごぱじる(大根葉汁)」が思い浮かぶ。くたくたに柔らかく煮えた大根の葉が重いくらいにどっさりと入っていたお椀。熱々のところをフーフーしながら食べるのが大好きだった。
そんなある日、おかわりをたっぷりとよそい、嬉々としながら食べようとした瞬間だった。一匹の大きな虫が、目の前を斜め下に向かってすごいスピードでブンっとよぎり、一直線にお椀に飛び込んでしまった。楽しみにしていた2杯目のだいごぱじるはすっかり台無し。子供心にひどく悲しかったことを覚えている。

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今でも大根を見るたびに当時の記憶がよみがえり、台所にいた母や祖母の姿が思い出される。だいごぱじるは細かく刻んだ大根の葉をさっと湯がき、一度油で炒めてからみそ汁にしたものだ。大根の葉には、油と一緒に摂ると吸収が高まるベータカロテンが豊富だ。おいしいだけでなく理にかなったひと品でもある。また、成長した大根の葉に限らず、間引いた未成熟の細い大根を切っていれることもあった。幼い頃は汁の中から柔らかく煮えたその白い根が見つかると、まるで宝物を見つけたようにちょっぴり嬉しかったものだ。

当時は大根の葉が食材として存在することが当たり前だと思っていた。だが、現在スーパーで売られている大根にはめったに葉がついていない。葉がついた大根を見つけるたびに自分なりに作ってみるのだが、残念ながら母の味は再現できていない。幼き日の記憶をたどりながら、大好きだったあの味を求めて未だ試行錯誤を重ねている。

じつをいうと少し前まで、野菜果物は体に必要なものという認識はあったものの、特に興味はなかった。それが友人に誘われるままに参加したセミナーで「野菜って面白いなぁ! もっと知りたい!」と心から思い、野菜ソムリエになるきっかけとなった。資格取得後は、自分のアンテナにひっかかることは食に関することが多くなった。また野菜ソムリエの活動を通してたくさんの方と知り合ったことで刺激を受け、食への興味はさらに増している。現在は、この資格や人とのつながりを通して、周囲の人や社会にもっと野菜の魅力を知ってもらうため何か貢献はできないものかと模索中である。

木原夕子さんのプロフィール
山形県在住。野菜ソムリエ、アスリートフードマイスター。着物を着ること、おいしいものを食べることが大好き。歯科医院を経営している夫の影響で、歯や噛むことが健康に大きく関わることに気付く。野菜ソムリエの資格取得を機に、食に対する興味はますます大きくなり、今はフルーツカッティングを勉強中である。

取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ