野菜ソムリエの思ひ出の味
思いを引き継ぐ、福井の伝統野菜「吉川ナス」

2015年7月22日UP

 「吉川ナス」との出会いは、2008年夏、シェフとしてカフェの厨房で働いていた頃だ。いつも野菜を仕入れている市場の社長さんが「同じ鯖江市でつくられている伝統野菜や。こういうのも知っとかなあかん。食べてみな。」と一箱送ってくださったのだった。
 箱を開けた瞬間目に飛び込んできたのは、瑞々しさを感じる皮の張りと艶、大人の男性のこぶしほどに大きくて丸い吉川ナスの姿だ。まずは、その美しさに目を見張った。みんなで試食するために、輪切りして素揚げにしてみた。味噌と一緒に食べてみると、トロリとした食感と優しい甘さ、口に残らない皮の薄さにとてもびっくりした。サイズは大きいが決して大味ではなく、肉質は緻密、皮が薄くても煮崩れや焼き崩れがしない魅力的なナスだった。その姿や味わいから、この土地で大切に育まれていることが感じられ感動した。そして、お会いしたことがないにも関わらず生産者さんの愛情がじわりと伝わってきて、喉の奥が熱くなったことを覚えている。

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 じつは当時、吉川ナスは絶滅の危機をむかえていた。一般的なナスと比べてとてもデリケートで栽培に手間がかかることから、栽培する農家がいなくなってしまったのだという。それでもたった一軒だけ、土地固有の種を守るために手間と愛情をかけている農家さんがいるという話を耳にした。その農家さんの気持ちを受けて心を込めて料理するだけでなく、しっかりと言葉にして作り手の思いをお客様に伝えることが、飲食店として野菜を預かる私たちの責任ではないだろうかと身が引き締まる思いがした。
 最初の出会いから一年が経った頃、最後まで吉川ナスを手掛けていた唯一の農家さんがお亡くなりになった。当時は農家の高齢化もあり地元で種を継ぐ方は見つからなかったが、幸い、福井県内の若い専業農家さんが遺志を受け継ぐこととなった。その後、地元鯖江市でも種を継いで栽培する農家が増えていき、風前の灯火だった吉川ナスは、今や地元の夏の定番となった。

 カフェを辞めた今も、吉川ナスとの縁は続いている。私にとって吉川ナスは、“食材”としてだけでなく、“人の生きざま”として伝えたいと思う気持ちの詰まった野菜なのだ。家庭での料理にはもちろんだが、地域イベントなどでのメニュー考案時には積極的に吉川ナスを使うアドバイスをしている。肉質の良さを生かした吉川ナスのステーキは特におすすめだ。肉を使わずに、このステーキをメインにした「吉川ナスバーガー」は、地元の夏のイベントで人気商品となっている。

久保田桐子さんのプロフィール
福井県在住。ジュニア野菜ソムリエ。農家レストランやカフェで、地元生産者とのやり取りや野菜を中心にしたメニュー開発などを経験。現在は、フードコーディネーターとして、レシピ提案や料理講座、食品加工の商品開発アドバイスなども行っている。
<100daysそばダイエット応援中!>久保田酒店 くぼたきりこ’sブログhttp://www.kiriko-k.com/

取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ