野菜ソムリエの思ひ出の味
おばあちゃんの畑で食べた、採れたてのきゅうり

2016年6月22日UP
 小学校生活の夏休みは、熊本県のおばあちゃんの家に預けられることが多かった。例年通り、おばあちゃんの家で過ごしていた小学3年の夏休みのことである。暑いなか、仲良くなった近所の友達と遊んでいると、「みんなー、おやつだよ。」と言いながらおばあちゃんがやってきた。その手には、さっと洗われたきゅうりが入ったざる。そこから1本ずつ手渡しされたのだった。

 おやつと言えば駄菓子屋さんで買うものだと思っていた私には、きゅうりがおやつということに、まずびっくりした。畑で収穫したばかりのきゅうりは、噛むとポキッと音がして、歯ごたえもシャキシャキしていた。食べる前からきゅうり独特の青臭い匂いがするほどの新鮮さで、何もつけずそのまま食べたのに美味しかったことも驚きだった。おばあちゃんは、そんな孫たちの姿をニコニコしながら眺めていた。この時の経験は、今でも鮮明に覚えている程、インパクトが強いものだった。

 野菜ソムリエとなったのは、元々野菜が好きだったことに加えて、飲食店を営んでいて「知らないで食べるより知って美味しく食べてもらいたい」という気持ちが大きかったことが理由である。また、「まだ幼い自分の子どもたちが野菜を好んで食べることがなく、いろんな野菜を知って食べてもらいたい」と思ったことも資格取得の後押しになったように思う。
 資格取得を通して、奥深い野菜の魅力や育てる大変さなどに改めて気がつくことができた。そして、野菜が持つ本来の味・匂い・見た目の色などを、子どもの頃に身をもって実感できたことは、すばらしい経験だったことにも気がついた。おばあちゃんが採れたての美味しい野菜を私たちに食べさせたかった気持ちが、今ではよくわかるような気がする。
 おばあちゃんがそうしてくれたように、私も子ども達に野菜の魅力を発見させてあげられるような野菜ソムリエになりたいと思っている。そのため、自分で営むお店ではできる限り野菜の本来の味を損なわないよう切り置きはしない。また、トマトひとつをとっても、何種類もある中から、同じ食べるならトマトの本来の美味しさや魅力を発見できるようなものを選ぶといったことを実践している。そのせいか、お店にいらっしゃるお客様からは「うちの子どもたちは家ではサラダを食べないのに、このお店では野菜を食べてくれる。」という声も多い。お肉が主体のお店なのだが「野菜が美味しいと聞いてきました。」と言われることも増え、少しでも野菜の魅力を感じてくれている方が増えつつあることを実感している。

垣内 美由紀さんのプロフィール
福岡県在住。野菜ソムリエ。「知らないで食べるより、知ってもっと美味しく食べる」をモットーに、三人の子育て経験を活かして小さなお子様にもわかりやすいよう心がけながら、日本の食の歴史や食の大切さを伝える食育活動をしている。

取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ