野菜ソムリエの思ひ出の味
沖縄の伝統野菜「カンダバー」

2016年7月20日UP
 母子家庭で、母が夜遅くまで仕事をしていたこともあり、幼い頃はほとんど祖母の家で過ごしていた。祖母は様々な料理を作ってくれたのだが、その中で一番好きだったのは「カンダバージューシー」だった。味噌で味付けをした雑炊「ボロボロジューシー」に、カンダバー(かずら)を入れた料理で、地元沖縄では昔から馴染みのある料理である。祖母が作るカンダバージューシーは、前日の残り物の味噌汁とご飯に、庭先で摘んだカンダバーを足して煮込んだものだった。メインの具はカンダバー、あとは味噌汁の残り具合で大根や豚肉のかけらなどが入っている程度。とっておきの料理というよりは手抜き料理に近かったのだが、なぜかとても「あじくーたー」(味のよいもの、深みのある味を表現する沖縄方言)であった。祖母の家には、伯母家族も同居しており、同年代のいとこもいた。カンダバージューシーは、たまにある祖母と二人きりの時に食べることが多かったので、大好きな祖母を独占しているような嬉しい気持ちも加味されていたのかもしれない。

 カンダバー(かずら)は、芋の葉っぱのことである。ハートの形をした葉は、栄養価も高く、胃腸の疲れを和らげてくれる食材として古くから重宝されてきた。独特の青臭さは少しあるが、クセや苦味はなくどんな料理にも合い、大人も子供も食しやすい。昔は沖縄のどこの家庭でも庭先にあり、いつでも摘んで食べる野菜だったという。

 祖母は、カンダバーの他、いろいろな野菜を栽培し自給自足していた。時折、毎日ヘラを片手に泥まみれになっていた祖母の手を思い出すことがある。当時は何気ない日常の光景だったが、野菜ソムリエとして知識のある今だからこそ、野菜を育てることの難しさ、家庭菜園であっても容易くはないことをこなしていた祖母の凄さを感じ、改めて尊敬の念を抱いている。

 前職で「沖縄県農林水産物販売力強化事業」に携わったことが、ジュニア野菜ソムリエの資格取得のきっかけである。退職後、家庭を中心に自分のペースでフリーな活動をしたいと考えていた際、今の会社の常務から「うちの社員として在宅勤務で野菜ソムリエの活動をしてみないか?」と誘われ、新しい野菜ソムリエの形だと感じ入社した。
 入社後、ジュニア野菜ソムリエとして初めて取り組んだのが、カンダバーの一種「ぐしちゃんいい菜」の仕事だった。昔から食しているカンダバーは、在来品種の「八重山かずら」だが、ぐしちゃんいい菜は「ちゅらまる」という新品種の芋の葉柄部である。クセや苦みがなく食べやすい上に比較的収量性も高く、夏場の沖縄県産葉野菜生産量の少ない時期に旬を迎えるという良さがある。認知度を上げるため、量販店での試食販売や、野菜ソムリエ食堂にてオススメ食材として「ぐしちゃんいい菜スムージー」を商品化していただき、イベントでの提供や参加者へのサンプリングなどを実施した。私にとって温かい思い出が詰まった「カンダバー」の消費拡大のため、今年もそのお手伝いをしていく予定だ。

 最後に余談ではあるが、元々、野菜も料理も苦手で、野菜ソムリエとなった今も実は変わらない。しかし、知識を得たことで、外食時でも意識して野菜を摂取するようになり、家の食卓にも野菜が増えた。だからこそ、「野菜や料理への苦手意識があっても簡単に美味しく野菜を摂取できる方法」を常に探し、ほとんどの家庭にある基本調味料で簡単に調理できて「こんな食べ方もあるんだー」と思える提案など、私と同じような苦手意識のある方でも、野菜を食べ増やせるように楽しみ方を伝えていくことが私の使命なのかなと今すごく感じている。

桃原 未希さんのプロフィール
沖縄県在住。野菜ソムリエ。「野菜と料理への苦手意識」のある自身の経験をもとに「苦手意識のある方でも野菜を食べ増やせるご提案」を使命とし、青果物卸会社で企画営業や試食販売、食育講座を担当。

取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ