野菜ソムリエの思ひ出の味
人生の転機となった馬鈴薯アイユタカ

2016年8月31日UP
 10年程前、知り合いの農家が「作ってみろ。」と新品種の種芋を分けてくれた。それが、馬鈴薯(ばれいしょ)アイユタカとの出会いだった。長崎県は馬鈴薯の生産量が全国で2位である。長崎県雲仙市には県の馬鈴薯研究室があり、新品種の育種も行なっている。私の地元雲仙市小浜町は県内でも有数の馬鈴薯産地で、かつ、60年程前から続く種馬鈴薯の産地でもある。周辺には種馬鈴薯を生産する農家さんも多く、新品種の普及に力を入れられていることから、私のところにも一足早く新品種がやってきたのだった。

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 そして、頂いたアイユタカを栽培してみた。収穫したアイユタカは、それまでに出会った馬鈴薯のなかでも断トツにツルッと綺麗な肌質だと感じた。洗って皮ごとラップに包み、電子レンジで15分ほど加熱。特性を知るためのシンプル調理である。ひとくち食べるとしっとりとなめらかな食感が印象的で、これには特に感動を覚えた。地元JAでも取り扱いが始まったこともあり、次の作付けからは、我が家でも本格的に栽培を始めることとなった。

 アイユタカの特徴は、芽が浅くつるっとした肌で、きめ細やかで滑らかな質感。やわらかく火の通りが早い。また、他の品種よりもビタミンCの含有量が多いとされている。この魅力あふれる新品種との出会いは、私の人生の転機ともなった。
 栽培が始まったばかりで知名度の低いアイユタカに必要なのはPRだと考え、馬鈴薯農家の仲間たちとPR活動を開始することになった。馬鈴薯研究室や振興局、JAの方など、専門家からアイユタカについて学んで品種特性を知り、食べ方の提案を考えるだけでなく、「小浜温泉女将の会」など異業種である観光業と連携したPR、キャッチコピー募集企画、新聞やテレビへの出演など、様々に活動するようになっていった。

 PR活動を進めるうちに「農家です!」だけではなく、さらに説得力が欲しいと思うようになり、ジュニア野菜ソムリエの資格にチャレンジした。資格取得後は、さらに作物について考えるようになり、いろいろな野菜への興味が沸いて、ビーツやコールラビなど目新しい西洋野菜への挑戦をするようにもなった。また、野菜ソムリエさんが集まる研修会やコミュニティイベントにも参加して県内外の野菜ソムリエさんたちと出会うことができたので、つながりの輪がさらに広がったようにも感じている。将来、状況次第では野菜ソムリエ中級の資格にもチャレンジしたいと思う。

 アイユタカをきっかけに始めたPR活動は、現在、活動の拠点をJA青年部に移し、アイユタカに限定をせず、馬鈴薯を主軸にしたさらに大きな活動になってきた。仲間以外の地元の農家さんからの理解も得られるようになり、企画連携した観光業などの異業種とも相乗効果でお互いの活性化が図れている。今後は、仲間たちとの活動も継続させながら、青果物として売り込むだけでなく、商品開発などまた違った角度から提案できるようにもしていきたいと思っている。

宮田和晃さんのプロフィール
長崎県在住。ジュニア野菜ソムリエ。長崎県立農業大学校卒。馬鈴薯をメインに、米、レタス、ブロッコリー、黒毛和牛などを育てる専業農家。
https://www.facebook.com/MIYATAFARM/

取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ