野菜ソムリエの思ひ出の味
宮崎県の日向夏

2016年10月12日UP
 結婚が決まり、宮崎県にある主人の実家へ初めて行った日のことである。今から13年前、5月のゴールデンウィークの頃だった。緊張していた私に義母が食べさせてくれた日向夏。それが、私にとっての思ひ出の味だ。

 白皮がついた状態で、食べやすいサイズにカットされた日向夏が個々のガラスの器に盛られていた。義母が私たちのために用意してくれたものだった。日向夏はそれまで食べたことがなかったのだが、酸味と甘みのバランスがとれた深みのあるおいしさと、白皮の部分を一緒に食べるということがとても印象的だったことを記憶している。緊張しながらも、日向夏の話題から宮崎のおいしいものの話になり、とてもいい時間を過ごすことが出来たように思う。

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 宮崎県の太陽を浴びて育った日向夏を宮崎で食べるのは格別だった。その風土に合った食べ物をその土地で食べる事は本当においしいということを改めて感じられた経験だった。
 この主人の実家での経験をきっかけに、家族で幼少期の話をする時には、色々な場所や国に行った記憶よりも色々な物を食べたという記憶の方が強く思い出されるようになった。私は北海道で産まれたが、父の仕事の関係で幼少期を千葉県やドイツで過ごしていた。千葉県では梨、ドイツではじゃがいもやソーセージがとてもおいしかった記憶が呼び覚まされたように思う。

 綺麗な鮮黄色をしている日向夏は、甘みが強い内果皮(白皮)と果肉を一緒に食べることで、独特の風味を味わうことが出来るのが魅力の果実である。宮崎県外では、「土佐小夏」や「ニューサマーオレンジ」という名前で栽培されているが、宮崎県で栽培される日向夏は、温暖で適度な湿気のある場所で栽培されるため、みずみずしく人気がある。
 義母は、ゴールデンウィークに宮崎県に帰省した時は日向夏をお土産に持たせてくれ、年末はポンカンを毎年必ず送ってくれる。これは結婚して13年、私の毎年の楽しみである。

 日向夏の他に宮崎県で大好きなものは、日南市の飫肥(おび)名物である厚焼き玉子や飫肥天である。いずれもとても甘い味付けなのだが、海沿いで潮気があり甘いものが食べたくなるからだとか、砂糖や卵が貴重だった江戸時代に家臣から飫肥の殿様に献上されたからだといったいわれがある。そのような背景も含め、その土地に合った郷土料理なのだ。

 数年前、体調を崩してしまったこともあり、「自分が興味をもって楽しく、かつ、食生活の見直しも図れるような一石二鳥となるものはないか」と検索して行き着いたのが、野菜ソムリエだった。資格を取得したことで心も身体も満たされ、毎日がとても楽しく充実したものとなっている。日向夏と出会ったのは野菜ソムリエとなるずっと前なのだが、野菜ソムリエを取得してからは、地域の特産物や郷土料理を大切にしたいと、より一層強く思うようになったのだった。

小野理恵さんのプロフィール
福岡県在住。野菜ソムリエ。ベジフルビューティーセルフアドバイザー。「食は、人を幸せにする」をモットーに、資格を活かして、主婦業の傍ら、日々野菜・果物の魅力を追求し、料理教室や販促、野菜・果物の楽しみ方講座等において、「健康美」をテーマにした、旬の素材を活かす簡単でおいしいレシピの提案等を行っている。

取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ