野菜ソムリエの思ひ出の味
母がつくってくれたスイートポテト

 秋にサツマイモのおすそわけをいただく度、母がつくってくれたのはスイートポテトだった。大量のサツマイモを蒸してつぶし、はちみつ、バター、卵、ラム酒、塩を混ぜる。小さなサツマイモのような形状に整えたら、溶き卵を塗ってツヤをだし、黒ごまを散らしてオーブンで焼く。お店に並ぶスイートポテトは裏ごしてあって舌触りがなめらかで上品なものが多いが、母のレシピでは裏ごしはせず、たまにごろっとしたサツマイモが出てくる。甘さは控えめでラム酒がふんわり香る味わいだ。幼い頃、母がスイートポテトをつくる時はいつも隣で眺めていた。大人になり自分でつくるようになったスイートポテトは、その時に目と舌で覚えた母のレシピがベースになっている。

 完成形の母のスイートポテトはもちろんおいしいのだが、幼い私が大好きだったのは、成形して焼く前の途中段階のものだった。大きなボウルから木べらですくって手のひらにのせ、味見といってはつまみ食いをする。これが最高においしくてなかなか手が止まらない。味見の範疇を超えた量をつまみ食いして叱られては、またこっそりつまみ食いの繰り返し(笑)。母は半分怒って、半分笑って、最終的には私と一緒に味見というつまみ食いをした。そして「誰が一番たくさん食べた?」と笑っていた。スイートポテトをつくる度にふと思い出す光景だ。

 母は大量につくったスイートポテトを、サツマイモをおすそ分けしてくれた方、知人や近所の方等にも届けていた。スイートポテトに限らず、たくさんつくったお惣菜や、クリスマスケーキ、誕生日ケーキなど、普段お世話になっている方や知人にいつもプレゼントして喜ばれていた。後日、おすそわけ先の方々と会うと、「お母さん上手だね。おいしかった」と笑顔で言われることもあり、私まで得意げになることもあった。
 そんな母の姿を幼少期から見ていたからこそ、一緒につくる楽しさ、手づくりのおいしさや温かさを自然に学ぶことができたのだと思う。進路に栄養士の道を選び、就職は料理教室を選んだのも、母の影響があったかもしれない。今となって思うことだ。

 結婚して娘が生まれ、私も母になった。かつての私に似た幼い娘と一緒にキッチンに立つことで、当時の母の気持ちがわかるようになった。キッチンでいろいろ教えてあげたいし、料理上手になってほしい!しかし忙しい時はつきまとわれると困ることもある。
 娘もスイートポテトの途中段階が好きなようだ。つまみ食いも少しなら許してあげるけれど、本気食いの量をつまみ食いされると怒りたくもなる。特にプレゼント用につくっているときは、当時の母の怒りを心底理解できるようになった(笑)。一方で、娘がママと一緒につくりたい!というのも、こっそりつまみ食いするのも、幼かった当時の気持ちを思い起こすと充分に理解が出来る。娘も息子も「ママの作ったごはんやケーキは世界一おいしい」と嬉しいことを言ってくれるが、私自身もいまだに母のつくった料理のおいしい記憶は色褪せない。大人になりおいしいものをたくさん経験しても、記憶に刻み込まれている母の手づくりが一番なのかもしれない。

 野菜ソムリエになったのは、出産して離乳食を開始する頃だった。今後の子育てや子どもの食事に生かせる勉強はないか探していて出会った資格だった。資格取得後は、普段の食事や料理教室のレシピをつくる時に常に旬の野菜をおいしくたくさん食べられる方法を考えるようになった。現在は小学生や親子向けの料理教室を開催している。今後は、子どもたちが自分で料理をして苦手な野菜も食べられるようになる講座をもっと開催したいと考えている。また、その前段階のマタニティのママ用の料理教室や離乳食講座も開催し、その時期に必要な栄養や野菜のことを伝えて、「食で身体ができる」ことを小さいうちから意識して食べる習慣を身につけてもらい、元気で笑顔の親子を増やしたいとも思っている。

福岡繭香さんのプロフィール
福井県在住。野菜ソムリエプロ。料理教室にて10年間、料理・パン・ケーキの講師として勤務。退職後は野菜ソムリエとして公民館や各種施設等で野菜中心の料理・スイーツ教室を開催。また、幼稚園・小学校にて食育講座や親子料理教室を行い、食の大切さを伝えている。
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written by

タナカトウコ

/取材・文

野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
ホームページ http://urahara-geidai.net/prof/tanaka/
インスタグラム toko_tanaka