野菜ソムリエの思ひ出の味
二十歳をむかえるとかゆみは治まると信じたサトイモ

 両親ともにサトイモが大好物で、実家の食卓には頻繁にサトイモの煮物料理が上がっていた。しかし子どもの頃の私はサトイモがあまり好きではなく、そのサトイモ料理に箸をつけることはあまりなかった。その理由はただひとつ。皮をむく時に手がかゆくなるからだった。

当時、サトイモの皮むきを手伝うと100円がもらえることになっていた。小学校から帰ると、サトイモ・包丁・新聞紙・100円をスッと渡され、「はい、今日もどうかよろしくお願いします」と、母は妙に丁寧な言葉遣いでお願いしてくる。1回につきサトイモは6個程度。冬場には2日に1回のハイペースで頼まれることもあった。100円のために頑張るけれど、サトイモの皮むきは一旦かゆくなるとなかなか治まらず、嫌だなぁと憂鬱な気分になる。でもお小遣いをもらえてうれしい気分にもなる。テンションが上がったり下がったり、すごく悩ましかった。
 「お母さんはかゆくならんと?」と聞くと、母は「成人式がきたらかゆみは治まる。大人になるっちそういうこと。」と言った。小学生だった私がそんな話を本気で信じたのは、母がかゆい素振りを一度も見せたことがなかったからだった。
 社会人になった私は仕事の忙しさを言い訳に料理の手伝いから離れ、その話もすっかり忘れていた。ある日おでんをつくろうとサトイモの皮をむくと、当然だがやっぱりかゆかった。そういえばと実家の母に訊ねると、母もかゆかったと言う。そこでやっと100円の意味に気づいたのだった。ここ数年は、会社生活を引退した父がサトイモの皮むき担当になっている。父もお駄賃をもらっているのか、今度聞いてみようと思う。

 サトイモへの苦手意識が消えたのは、有機栽培農法の貸農園で年間35品種の野菜を栽培するようになった6年前のことである。自分で育てたサトイモの味が濃厚で感動的なおいしさだったのだ。両親や友達からも褒められるほどだった。以来、サトイモは毎年栽培し、今では最も収穫が待ち遠しい野菜となった。
 4月に種芋を植えたサトイモは、いよいよ11月に収穫期をむかえる。サトイモは様々な料理に幅広く使えるが、おすすめは食品ロス削減とおいしさを両立できる「皮チップス」だ。通常は捨てる部分の皮を厚めにむいて、170℃に熱した油で2~3分素揚げし、熱いうちに好みの塩をふりかけるだけ。宮崎県の生産者さんに教えてもらったレシピである。ちなみにサトイモはイモ類の中では低カロリーで、皮の部分にはカリウムが豊富。こういった数多くの情報を入手できることも、野菜ソムリエになってよかったと思える一因である。資格取得のきっかけは、仕事でキャラクターショーなどにも関わっていることから、野菜が苦手な子どもたちに「魔法」をかけることができればと思ったことだった。野菜ソムリエの勉強や活動を通じて、食べるだけではない技も身につけ、第6回野菜ソムリエアワード金賞受賞へも繋がった。今はコロナ禍で思うような活動ができていないが、当初から思い描いている目的は自分の使命だと思っている。これからも野菜が苦手な子どもたちに「魔法」をかけ続け、野菜ソムリエ界の「かぶりものの女王」として野菜果物の魅力を老若男女に楽しく伝えていこうとも思っている。

なかしま ゆみさんのプロフィール
福岡県在住。笑いと食で感性豊かな心を育む野菜ソムリエプロ。食に関する講演、イベント、社会貢献活動も行う。勉強を兼ねて有機栽培貸農園で年間35品種の野菜を栽培中。第6回野菜ソムリエアワード 野菜ソムリエ部門 金賞受賞。
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タナカトウコ

/取材・文

野菜ソムリエプロ、ベジフルビューティーアドバイザー。薬膳や漢方の資格も複数保有し、「食」を軸に多角的に活動中。書籍に「日本野菜ソムリエ協会の人たちが本当に食べている美人食」「毎日おいしいトマトレシピ」「旬野菜のちから−薬膳の知恵から−」等がある。
ホームページ http://urahara-geidai.net/prof/tanaka/
インスタグラム toko_tanaka